「ということは……、わたしも貢さんも一目ぼれ同士だったってことですよね」

「えっ、そうだったのか? つうことは、アイツと君って知り合った時からすでに両想いだったっつうことかー」

「そう……なりますね。そっか、そうだったんだ……」

 その時になってやっと、出会ってからの彼の優しさの意味が心にストンと落ちた。彼がずっとわたしに対して親切だったのも、葬儀の日に親族の前からわたしを連れ出してくれたことも、思いっきり泣かせてくれたことも全部、わたしへのまっすぐな恋心からだったんだと。もちろん、わたしの秘書になってくれたことも。
 でも元々誠実な彼のことだから、そこに下心とか打算なんて入り込んでいなかったと思う。

「わたし……、貢さんに謝らなきゃ。既読スルーしちゃったこと。それと、彼にちゃんと気持ち伝えます。だって、誤解されて落ち込まれてるのはイヤだから。――悠さん、ありがとうございました」

「いやいや、いいって。んじゃ、オレはそろそろ帰るわー。あ、アイツにオレのことで何か言われたら、『ナンパされわけじゃない』って言っといてよ。オレ彼女いるし、間違っても弟が惚れた女の子に手ぇ出すようなことは絶対しねぇから」

 悠さんはそう言って、すっかり冷めたブラックコーヒーを飲み干した。

「はい、分かりました。そう言っときます」

「よしよし。あ、でも連絡先だけは交換しとこうか。アイツと何かあった時に、絢乃ちゃんがオレを頼れるように」

「ええ、いいですよ。交換しましょう」

 わたしは「これってナンパにならないのかな……」と思いながら、悠さんと連絡先を交換した。


 ――わたしもカフェラテとガトーショコラを平らげたタイミングで、悠さんと二人でお店を出た。

「じゃあな、絢乃ちゃん♪ 貢によろしく。自分の気持ち、しっかりアイツに伝えな」

「はい。今日は本当にありがとうございました!」

 わたしは新宿駅前の適当なベンチに腰を下ろし、バッグからスマホを取り出した。メッセージアプリのトーク画面を開き、彼からのメッセージの返信を打とうと思ったけれど、気が変わった。

「こういう時は、ライン打つより電話の方がいいよね」

 緑色のアプリを閉じ、電話のアイコンをタップした。履歴から彼の番号をリダイアルする。わたしから彼に電話するのは実に一ヶ月ぶりだった。

『――はい。絢乃さん、どうされたんですか? お電話なんて珍しいですね』

「桐島さん、お休みの日にごめんね? 今、どこで何してるの?」

 休日の彼をわたしは知らなかった。週末は実家に帰っていると聞いたけれど、それ以外の情報が極端に少なかったのだ。「コーヒーとクルマが好き」ということ以外に、どんな趣味を持っているのか聞いたことがなかった。