「……あ、それ確かめたいなら今の時期チャンスなんじゃない? ほら、もうすぐバレンタインデーだしさ」

「バレンタインデーか……。そういえばそんな時期だね。忙しくて忘れかけてたけど」

 昇降口へ向かって歩いている途中で、里歩がまたもやナイスな提案をしてくれた。恋する人にとって、バレンタインデーは絶対に外せないビッグイベントだ。

 初等部から女子校に通っていて、これまで恋愛経験ゼロだったわたしは〝女子校バレンタイン〟しか知らずに育ってきた。具体的にいうと、同級生や後輩の女の子からチョコをもらったり、里歩と友チョコを交換したり。男性にチョコをあげたのは寺田さんと父くらいのものだ。

 でも、この年は違っていた。生まれて初めての、好きな人=本命の相手がいるバレンタインデー。これはわたしにとってすごく特別な意味を持っていて、わたしの恋のこれからを左右する日といっても過言ではなかった。

「でしょ? もう思い切って告っちゃえ! バレンタインデーに手作りチョコでも渡してさ、桐島さんにアンタの気持ち伝えて。そのついでに彼の気持ちも確かめたらいいんじゃない?」

「そんな、『告っちゃえ』って簡単に言うけど」

「んじゃ、告るのは別にいいとして、チョコだけでもあげたら? 桐島さんってスイーツ男子だし、絢乃の手作りチョコなら喜んで受け取ってくれると思うよ」

「手作りねぇ……。やってる時間あるかなぁ」

 里歩の言うとおり、彼は甘いものに目がないし、わたしからなら受け取らないはずがない。ただ、手作りというのは……。会長に就任してからというもの、色々と多忙になったためあまり時間が取れなくなっていたのだ。

「そこはまぁ、来週はテスト期間だし。休みの日もあるし? あたしも部活休みだし準備とか手伝ってあげられるから」

「うん……、じゃあ……考えてみようかな」

「――『考えてみる』って何のお話ですか? 絢乃さん」

「わぁっ、桐島さん! ビックリしたぁ」

 ()()()()()()()()の声が急に聞こえてきて、わたしは思わず飛び上がった。でも、何のことはない。わたしたちはおしゃべりしている間に校門の前まで来ていたのだ。

「お……っ、お疲れさま。早かったねー」

「桐島さん、こんにちは。今日も絢乃がお世話になります」

「こんにちは、里歩さん。今日はたまたま道路が()いていたもので、早めに来られたんです。――ところで何のお話をされていたんですか?」

 わたしの笑顔が若干(じゃっかん)引きつっていたことにも、里歩が一緒にいることにも彼は動じることなく、彼女への挨拶もそこそこにサクッと本題に戻した。