「僕は秘書として、あなたに気持ちよくお仕事をして頂けるよう、これから色々な工夫をしていこうと考えてます。――絢乃さん、コーヒーお好きですよね?」

「えっ? うん。でもどうして分かったの?」

 わたし、彼に自分がコーヒー好きだと話したことあったっけ? 

「お父さまの火葬中、号泣された後にカフェオレをお飲みになっていたので、多分そうではないかと」

「あ、そっか。よく憶えてたね」

「ええ。僕も大のコーヒー好きなので、同じコーヒー好きの人は何となく分かるんです。実は昔、バリスタになりたいと思っていたこともあったので、()れる方にも凝っていて……。それで、絢乃会長がご休憩される時に、僕が淹れた美味しいコーヒーをぜひ飲んで頂こうと考えているんです。ご期待に沿えるかどうかは分かりませんが」

「……そうなんだ。それは楽しみ」

 わたしは顔を綻ばせながら、初めて彼に家まで送ってもらった夜の会話を思い出した。彼にははぐらかされたけれど、これが彼の夢だったのか……。

「ところで桐島くん、私は紅茶党なんだけど。あなた、紅茶も淹れられるの?」

「申し訳ありません。紅茶はちょっと専門外なので……、これから勉強させて頂きます」

 彼は母の無茶ぶりにも、誠心誠意答えていた。まさか本気で紅茶の勉強まで始める気だろうか?

「――さて、もうじき着きますね」

 彼の言葉で窓の外を見ると、赤レンガでできたレトロなJR東京駅の駅舎が見えていた。


 ――パパ、いよいよ約束を果たす時が来たよ。わたしは空を見上げて、天国にいる父に心の中で語りかけた。