「……………………うるさい」

「絢乃?」

「絢乃さん?」

「うるさいうるさいうるさいうるさいっ!」

 ずっと溜めに溜め込んでいた感情がとうとうマグマのように噴き出し、思いっきり叫んだ後過呼吸を起こしそうになった。わたしの異変に気づいた貢が、わたしの背中を軽くさすりながら母に声をかけた。

「……加奈子さん、絢乃さんの具合があまりよくないみたいなので、ちょっと外へお連れします。よろしいですか?」

「ええ。桐島くん、ありがとう。お願いね」

「何なんだ君は! 赤の他人が出しゃばるんじゃない!」

「彼はこの子の秘書なんだけど、何か問題ある?」

 母が食ってかかってきた親族を睨みつけながら、貢に「早く行きなさい」と手で合図を送っているのがわたしにも分かった。


 ――わたしはコートとバッグを持ち、彼に連れられて待合ロビーに来た。ドリンクの自動販売機二台と、ソファーとローテーブル数セットが並ぶロビーには化粧室もあり、座敷ほどではないけれどちゃんと暖房も効いていた。

「――絢乃さん、もしかしてお父さまが亡くなられてから一度も泣かれていないんじゃないですか?」

 わたしをソファーに座らせ、自分も隣に腰かけた彼が、優しく問いかけてきた。

「うん……。だって、ママの方が絶対悲しいはずだもん。ママが先に泣いちゃったら、わたしは我慢するしかなかったの」

 これはやっと吐き出すことができたわたしの悲しい本音であり、きっと貢が相手だったから打ち明けられたんだと思う。

「それだけじゃなくて、あの人たちひどいよ! なんであんな死者に(むち)打つようなこと、平気で言えるんだろう? 信じられない!」

 ずっと溜め込んでいたマイナスの言葉が、一度口をついたら止まらなくなった。彼はそれもすべて受け止めたうえで、わたしの背中を優しくさすりながらこんな提案をしてくれた。

「絢乃さん、ここなら僕以外に誰もいませんから、思いっきり泣いてもいいですよ。この際、思い切って心のデトックスしちゃいましょう。僕はあなたの秘書ですから、すべて受け止めますよ」

「……………………う~~~~……っ」

 彼の大きな手のひらの温もりでわたしのフリーズしていた心が溶けて、ボタボタと大粒の涙がこぼれた。わたしはそのまま大きな声を上げ、背中を丸めて泣きじゃくった。