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 ――父の社葬は一般的な献花式で行われた。篠沢家が無宗教のためだ。

 大ホールの壇上に父の遺影と(ひつぎ)を中心とした大きな祭壇と献花台が(しつら)えられ、参列者がそこに白い花を一輪ずつ手向(たむ)けていった。お別れの言葉を述べるも述べないも個人の自由。
 喪主である母に続いて父に花を手向けたわたしは、何も言わずに遺影を見つめていた。もう決意表明は済んでいたし、「さよなら」は言いたくなかったから。「何て冷たい娘だろうか」と、他の親族には思われたかもしれない。

 式典の間ずっと、里歩が母と反対側のわたしの隣に、貢もすぐ後ろの席に座っていてくれたので、わたしも何とか落ち着いていられた。


 全員の献花が終わり、いよいよ出棺という時になって、里歩が「あたしはここで帰るよ」と言った。

「絢乃、ごめん! あたし、今日はあくまで両親の代理だしさ。桐島さんがいてくれるなら大丈夫だよね?」

「うん……。里歩、ホントにありがとね。学校はしばらく忌引きになると思うから、三学期が始まったら先生によろしく言っておいて」

「分かった。――桐島さん、あたしはこれで失礼します。絢乃のことお願いしますね」

「はい、任せて下さい。お気をつけて」

 コートを着込んでホールを後にした里歩を見送った後、貢が「それでは、そろそろ僕たちも参りましょうか」と着ていた黒いコートのポケットからクルマのキーレスリモコンを取り出した。社用車ではなく、彼の愛車のキーだ。

「斎場まで、僕のクルマで送迎致します」

「うん。桐島さん、よろしくお願いします」

「桐島くん、ありがとう。安全運転でよろしくね」

「はい。――では、お二人は後部座席へどうぞ」

 彼はロックを外すと、うやうやしく後部座席のドアを開けてくれた。