「そうだよ。この色、アンタに似合いそうだなーと思って。ちなみにパウダーのコンパクトはこの季節限定のヤツなんだ」

 里歩はボーイッシュに見えて、実は美意識が高いのだ。わたしへのプレゼントにコスメを選ぶなんて、そんな彼女らしい。

「絢乃さん、〈Sコスメティックス〉ってウチのグループにある化粧品メーカーですよね?」

「そう。価格帯が安いから、OLさんとか女子大生だけじゃなくて女子中高生にも人気あるみたい」

「へぇ……」

 〈Sコスメティックス〉が創業されたのは、祖父が会長だった頃らしい。母も創業に一枚噛んでいたとかいなかったとか。

「……あの、僕は何も用意していないんですが……」

「ああ、私もなんだが」

 女子二人のプレゼント交換を終えたところで、貢と父が申し訳なさそうに手を挙げた。

「いいよ、気にしないで。二人はこのパーティーに参加してくれただけで十分だから」

「そうですか? 何だか、招待されたのに手ぶらで来たのが申し訳なくて。……あ、そうだ。絢乃さん、後ほど少しお付き合いして頂けませんか? お見せしたいものがあるので」

「……えっ? うん、いいけど」

 彼がわたしだけにそっと耳打ちしてきたので、わたしはドキッとした。そんなわたしたちの様子を、両親と史子さん、里歩の四人がニヤニヤしながら眺めていた。


 ――その後、わたしたちは部活の話題で盛り上がった。
 里歩がバレー部のキャプテンで、花形ポジションのウィングスパイカーだと知ると、貢はしきりに感心してしまいにはセクハラまがいの発言まで飛び出した。わたしがその場でたしなめたけれど。
 そして、彼はわたしと同じく帰宅部だったらしい。てっきり何か運動部に入っていたんだと思っていたわたしは、意外な事実に驚いた。

 八時ごろに「疲れたから先に休む」と言った父を母が寝室へ連れていき、その三十分後に片づけを手伝ってくれた里歩が粉雪の舞う中を帰っていった。
 そして、史子さんも他の家事をするためにリビングダイニングを出ていき、わたしと貢の二人だけになった。

「――あの、絢乃さん。僕もそろそろ失礼しようかと思ってるんですが、よかったら今から僕の新車、ご覧になりますか?」

「えっ?」

「先ほど、『お見せしたいものがある』と言ったでしょう?」

「あ……」

 そう言われて、わたしはやっとピンときた。確かに彼は、プレゼント交換の時にそう言っていたけれど。「わたしに見せたいもの」というのは新車のことだったのだ。