――その日の夕食の時間、わたしは両親に里歩から提案されたクリスマスパーティーの話をした。

「……あら、いいじゃない! やりましょう、クリスマスパーティー! ねえあなた?」

 母はわたしの話を聞き終えるなり、乗り気になった。

「そうだな。お父さんも体調がよければ参加しよう。疲れたらすぐ部屋に戻るが、それでもよければな」

「それはもちろんだよ。パパの体調が第一だもん」

 わたしも母も、父には無理をさせないつもりでいた。もちろん、提案してくれた里歩もそうだろう。
 その頃の父はもう、抗ガン剤の中で最も強めの薬すら効果が出ないくらいに病状が悪化していて、後藤先生からも「年を越せるまで体力がもつかどうか分からない」と言われていた。歩くことさえままならず、移動は車イス。会社に顔を出すことも困難な状態になっていたのだ。

「そうだ、絢乃。クリスマスパーティーに一人、招待してほしい人物がいるんだが。篠沢商事の社員で、桐島という男だ」

「えっ、桐島さんを?」

 父の口から彼の名前が飛び出すとは思ってもみなかったわたしは、動揺から思わず声が上ずった。

「なんだ、絢乃は桐島君と知り合いだったのか。――彼には会社で何度か助けてもらっていてな、礼をしたいと思っていたんだ」

「そうだったんだ……。うん、分かった。わたしから連絡してみるね」

「あら、よかったわねぇ絢乃。桐島くんのこと好きなんだものね?」

「えっ⁉ ママ、いつから気づいてたの……」

 図星を衝かれてうろたえるわたしに、父も「やっぱりそうか」と頷いていた。母どころか、父にまで彼への気持ちがバレバレだったなんて……!

「…………実はそうなの。わたしね、生まれて初めての恋をして、その相手が桐島さんで」

 これは愛読している恋愛小説から得た知識で、父親というのは娘の恋人がどんな男性でも気にいらないものらしい。だから、わたしも父に申し訳ないと思ったのだけれど。

「いいじゃないか、絢乃。彼が相手なら、お父さんは大賛成だ。きっと絢乃のことを大事にしてくれる、桐島君とはそういう男だ」

「そうね。ママも、彼が絢乃の彼氏になってくれるなら大歓迎だわ」

「あ……そうなんだ。でも、わたしたちまだ付き合ってるとかじゃ……」

 両親が早とちりをしてそんなことを言っているんじゃないかと思い、わたしは慌てて否定したけれど。そこではたと気づいた。わたしと彼が交際を始める前に、父はこの世からいなくなってしまうかもしれないんだ、ということに。

「絢乃、次はいつ言えるか分からないから、今言っておく。――絶対に幸せになれ」

「あなた……」

 遺言のように言った父に、母も涙ぐんでいた。今思えば、きっとこれが父の最後の望みだったんだ――。