「明日ママに付き添ってもらって病院に行ってくる、って。大学病院にパパのお友だちが内科医として勤務してるから、その先生に診てもらうんだって」

『そうですか、ちゃんと病院に行かれるんですね。それはよかった』

「うん。まだ安心はできないけど、とりあえずパパが病院に行く気になってくれただけでも一歩前進かな。アドバイスをくれたのが貴方だってことは言わなかったけど、言った方がよかった?」

 わたしはあえて、貢の名前を出さなかった。父が機嫌を(そこ)ねた場合、彼にまでとばっちりが行く可能性を考えてのことだった。

『いえ……まぁ、僕はどちらでもよかったですけど。絢乃さん、ご存じでした? お父さまは篠沢商事の社員や、篠沢グループの役員全員の顔と名前を記憶されてるんですよ。なので、今日会場にいたのが僕だということも気づかれていたはずです』

「えっ、そうなの⁉ パパすごすぎ……」

 彼が打ち明けてくれた父の驚愕の事実に、わたしは絶句した。父の頭の中が、まさか脳内データベース化していたなんて……!

『――それはともかく、絢乃さんは明日どうされるんですか? お母さまとご一緒に付き添いに?』

「ううん、わたしは明日学校に行くことにした。友だちに心配かけたくないし、パパのことはママに任せようと思って。病名が分かったら連絡してってお願いしておいたから」

『そうですね、僕もそう思います。絢乃さんがついて行かれても、かえってご両親に心配をかけてしまうだけでしょうから』

「やっぱり……そうだよね」

 わたしがもっと幼い子供だったら、間違いなく「一緒に行く」とダダをこねていただろう。でも十七にもなったら、どの選択が自分のために一番いいのか分かるようになるものだ。

『明日はきっと、お母さまから連絡があるまで絢乃さんも落ち着かないと思いますが……。あなたの判断はきっと間違っていないと僕は思いますよ』

「うん。桐島さん、ありがとね。貴方も、今日はお疲れさま。今日はこれで失礼するね。これからお風呂に入ろうと思ってたところだから」

『そうですか。あの、湯冷めしないように気をつけて下さいね。それじゃ、おやすみなさい』

 彼に「おやすみなさい」を返してから電話を切り、今度は履歴から里歩の番号にコールした。

「――あ、里歩。今大丈夫? あのね、今日――」

 彼女にも、パーティー会場であった出来事を話して聞かせた。「詳しい話は明日してあげるね」と言って。