彼はブルーのアスコットタイを結んでいる。これは「サムシング・ブルー」になぞらえたらしいのだけれど……。

「貢……、それって新婦側の慣習じゃなかったっけ?」

 わたしは婿を迎え入れる側だけれど、とりあえずこの慣習を取り入れてイヤリングと髪飾りをブルーにした。でも、新郎側がこれを取り入れるなんて聞いたことがない。

「まぁ、そうなんですけどね。僕も気持ちのうえでは(とつ)ぐようなものなので」

「……そっかそっか。まぁいいんじゃない? 今は多様性の時代だしね」

 何も古くからのしきたりに(とら)われることはないのだ。これがわたしたちの結婚の形、と言ってしまえばそれまでなんだから。

「ところで貢、知ってた? ママがこれまで断ってきた、わたしの縁談の数」

「いいえ、僕は聞いたことありませんけど。……どれくらいあったんですか?」

「聞いて驚くなかれ。なんと二百九十九人だって!」

「えっ、そんなにいたんですか!? 逆玉狙いの男性が」

 彼はわたしの答えを聞いて、愕然となった。彼の解釈は間違っていない。

「ママね、わたしが小さい頃からずっと言ってたの。『絢乃には、本心から好きになった人と幸せを掴んでほしい』って。よかったよー、貢がその中に入らなくて」

「そうですね。これが絢乃さんにとって、いちばんの親孝行ですよね」

「うん。わたし、貢となら絶対に幸せになれると思う。やっぱり、貴方とわたしとの出会いは運命だったんだよ。貴方に出会えて、ホントによかった」

「僕も、絢乃さんに出会えてよかったです。もう二度と恋愛なんてゴメンだと思ってましたけど、そんな僕をあなたが変えて下さったんです。ありがとうございます」

 こうして向かい合って、お互いに感謝の気持ちを伝え合えるってステキなことだとわたしは思う。この先もずっと、彼とはこういうステキな夫婦関係を築いていきたい。

「絢乃さん、こんな僕ですが、末永くよろしくお願いします」

「……何かそれ、もう完全に花嫁さんのセリフだよね」

 思いっきり立場が逆転しているなぁと思うと、わたしは笑えてきた。

「でも、わたしたちって最初っから一般的なオフィスラブと立場が逆転してるんだよねぇ」

「……まぁ、確かにそうですよね」

 貢もつられて笑った。今日みたいないいお天気の日には、笑顔での門出が似合う。梅雨の時期なのに今日は朝からよく晴れていて、絶好の結婚式日和だ。

 ちなみに、この結婚式場は篠沢グループの持ち物である。新宿にあるこの式場のチャペルで挙式して、敷地内のガーデンレストランで披露宴をすることになっている。