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「――あー、楽しかったぁ♪ みなさんいいご家族だね、貢のお家」

 帰る道中の車内で、わたしは彼のご実家やご家族のことを褒めちぎった。

「貴方はあのお家で、あんなに楽しいご家族に囲まれて育ったからこんなにまっすぐな人になれたんだろうなぁ、ってわたし思ったよ。いい家柄じゃない!」

「絢乃さん、褒めすぎです。ウチはごく一般的な家庭で、名家でもお金持ちでもないですよ?」

 ご実家のことをあくまでも謙遜する貢に、わたしは思わず笑ってしまった。

「……何ですか?」

「ゴメン! わたしが言ってる〝家柄〟っていうのはそういうことじゃなくて、ご家族との関係とか家庭環境のことだよ」

「ああ……、そういうことですか」

「うん。そういう意味では、貴方は人柄も家柄も、わたしのお婿さんとして合格。あとは……貴方自身の気持ち次第だけど。……お母さまから聞いたよ。貴方が過去に、お付き合いしてた女性から裏切られて傷付いたって。それ以来、女性不信になってるって。……つらかったよね」

「…………。それで、絢乃さんは泣かれたんですね」

「どうして……」

「夕食の時、絢乃さんの目が少し赤くなっていたのが気になって」

「気づいてたんだ? じゃあ、それを踏まえたうえで貴方に訊くね。貴方は、わたしのことも信じられない? いつか裏切られるって思ってるの?」

 わたしは質問しながら、そうじゃなければいいと信じたかった。彼はわたしのことは信頼してくれているはずだ、そうであってほしい、と。
 だって、わたしと彼との間にはその時すでに、確かな信頼関係が築かれていたはずだから。

「そんなこと、あるわけないじゃないですか。あなたが純粋でまっすぐな女性だって、僕がいちばんよく知ってますから。そんなあなたが僕を裏切るはずないです。ですが……、やっぱり不安になるんです。一度生まれてしまったトラウマは、なかなか消えなくて――」

「わたし、貴方の過去なんて気にしない。過去なんて関係ないから」

 彼の必死な言い分を、申し訳ないと思いながらもわたしは遮った。

「確かに、貴方は過去の恋愛でつらい思いをして、心に大きな傷を負ったのかもしれない。でもね、貢。わたしはこれからの貴方の笑顔を守りたいの。わたしが貴方のトラウマなんてなかったことにしてあげる。だから、わたしを信じて前を向いてほしい。一緒に前に進もう?」

 ……さて、言いたいことはすべて言った。あとは、彼がどうするかだ。わたしは返事を待つしかなかった。

「……はい。実は僕自身も、このままじゃいけないと思ってたんです。前にも申し上げたとおり、絢乃さんと結婚したいという気持ちはあるので、これから前向きに考えてみようと思います」

「よかった……。ありがと、貢! ちょっとお節介だったよね、ゴメン。貢に迷惑がられたらどうしようかと思って心配だったの」

「確かに、絢乃さんは時々お節介ですけど。僕はあなたのそういうところもキライじゃないですよ」

「えっ、ホント!?」