「でもね、わたし、冗談抜きに貴方とはいい夫婦になれそうな気がしてるの。貴方の部屋のキッチンに二人で立ってお料理してるところなんか、まるで新婚カップルみたいだなぁっていつも思ってるもん」

「…………」

「あくまでわたしの勝手な妄想だから、気にしないで?」

 リアクションに困っていた彼にそうフォローを入れることで、あまり真剣に悩まないでねというニュアンスを言葉の端に込めた。

「……あの、先ほどのお話なんですが。両親は多分、僕が絢乃会長とお付き合いさせて頂いていることを知っていると思うんです。兄がバラしていると思うんで」

「そうなの? ……うん、まぁ、あのお兄さまならあり得るね」

「ああ見えて案外口は堅い方なんで、他の人たちにペラペラ喋りまわっていることはないはずですけど。両親になら話しているかな……と」

「なるほどね。じゃあサプライズなんてやってもあんまり効果がないわけか」

「そういうことです」

 もし仮に悠さんがご両親にわたしの人となりを話していたら、ご両親もわたしがどういう人間かをよくご理解されたうえで会って下さるということだ。もちろんサプライズなんて何の意味もなくなる。

「よぉーく分かりました。……ところで貢、貴方が恋愛はできても結婚に踏み切れない理由って何なの?」

「……えっ?」

「わたしがまだ高校生だからとか、喪が明けてないからとか以外にも何かあるんじゃない? たとえば貴方自身に」

「……あの、それは」

「もしかして、貴方の過去と何か関係ある?」

「……!」

 思いっきり単刀直入な訊き方に、図星を衝かれた彼は大きく目を見開いた。それはこの問題の核心に触れたということであり、わたしは無意識に彼の心の傷を(えぐ)ってしまったらしい。

「…………ごめん、貢。わたし、訊いちゃいけないことを訊いちゃったみたい。答えにくいことなら、無理に答えなくていいよ。貴方が話したくなったタイミングでいい。ちゃんと話を聞かせてほしいな。それまでは、わたしもこれ以上突っ込んで訊かないようにするから」

「……はい。お気遣い、ありがとうございます。――アイスカフェオレ、氷が溶けて薄まってしまってますね。淹れ替えてきましょうか」

 気まずくなった空気を変えようとしてか、彼は水滴だらけになったグラスに視線を移した。

「うん。ありがと。じゃあお願いしようかな」

 わたしは薄まったグラスの中身を一気に飲み干し、空にしたグラスを彼に差し出した。