「でもさぁ、彼とイチャイチャはしてるんでしょ?」

「……まぁ、適度には」

 わたしもそこは素直に認めた。
 キスはもう毎日の日課みたいなものだったし、彼からのスキンシップはしょっちゅうのことだった。とはいっても頭をポンポンされたり、頬に触って「お肌キレイですね」と褒めてくれたり、肩こりがひどい時に肩を揉んでくれたり、その程度。あまりベタベタしてくるわけじゃないけれど、それだけでも彼からの愛を感じられて嬉しかった。

「いいなぁ、大人の彼氏。めっちゃ憧れる~」

「いいなぁ……って、里歩の彼氏も年上じゃない。今年ハタチでしょ?」

 羨ましげに目を細めた親友に、わたしはすかさずツッコミを入れた。何を贅沢(ぜいたく)言っているんだか。
 専門学校生である里歩の恋人だって法律上では立派な成人だし、もうすぐお酒が飲める年齢になろうとしていたのだ。

「確かに年齢だけならもう立派な大人なんだけどさぁ、桐島さんに比べたらまだお子ちゃまだよ。落ち着きはないし、余裕もないし」

「いやいや! 貢だってそこまで〝ザ・大人〟って感じでもないよ? あれで意外とおっちょこちょいだし、プライベートでは甘えん坊なところもあったりして」

 仕事の時はバリバリ頼りになる秘書の顔をしていた彼だけれど、オンの時とオフの時でギャップというか落差がすごい。その事実は限られた人数しか知らないだろう。

「あら、そうなん? でもさぁ、桐島さんには絶対にブレない信念みたいなのがあるじゃん? 絢乃のことを支えたい、守りたいっていうね。そういうところが大人なんだと思うな」

「なるほど……」

 彼の性格は一言で表すと「一本気」、もしくは「一途」。確かに、ひとりの人間としての芯はもうできあがっていると言ってもよかった。そういう意味では「大人」と里歩が評価したのも頷けた。

「あのね、わたしが手作りのお料理で彼をお祝いしたいと思ったのは、彼からもらった愛のお返しをしたいって思ってるからなの。彼に求められたら、できるだけどんなことでも叶えてあげたいなって」

「それが、たとえ際どいことでも? アンタ拒まない自信ある?」

「それは……どうだろ? その状況になってみないと分かんないけど」

 わたしは首を傾げながらフライドポテトをつまんだ。たとえそうなったとしても後悔しない自信はあったけれど、絶対に拒まないと言い切れるか、と訊かれたらそこはあまり自信がなかった。