「な、なんでそう言い切れるのよ」

「そういえば僕の作ったものはまだ見せたことなかったね。確かにショコラが採取した素材にはとんでもない性質が宿ってるけど、それだけじゃまだ僕の錬成品には少し届かないよ」

 そう言ったクリムは、席を立って部屋の隅に置いてあるカゴに近づいて行く。
 どうやらそこに完成した品を仕舞ってあるらしく、中から一つの小さな巾着袋を取り出した。
 さらにそこから薄黄色の飴玉のようなものを出し、こちらに渡して来る。

「こ、これってもしかして、『琥珀の丸薬』? こんな難しいものまで錬成できるの?」

 錬成術で作成可能な傷薬は複数存在する。
 その中でも特に錬成が難しいとされているものの一つが『琥珀の丸薬』だ。
 素材の採取自体は比較的簡単だが、それに見合わず錬成の難易度が異常に高くなっている。
 錬成術は素材同士が結び合うイメージが明確にできていないと、完成状態が悪くなって使い物にならない。
 そして琥珀の丸薬の錬成には水素材が多く必要になっていて、錬成術において液体同士を正確に結び合わせるのはかなり難しいとされているのだ。
 だから琥珀の丸薬の錬成難易度はかなり高いと言われているが、見る限りきちんと錬成できていると思う。
 いや、それどころか……

◇琥珀の丸薬
詳細:琥珀水を素材にした丸薬
   服用することで高い治癒効果と能力向上効果を得る
   甘味がある
状態:至高
性質:治癒効果上昇(A)効果維持上昇(A)

「な、何よ、この“状態”は……?」

 鑑定魔法で試しに調べてみたら、“至高”という見たことのない状態だった。
 錬成品の状態は『最良、良、可、悪、最悪』の五段階だけじゃなかったの?
 何よ至高って……

「錬成物の性能や効果は、状態によって大きく変わるようになってる。中でも『最良』の状態の錬成物は、性能や効果が格段に高くなってるんだ」

「そ、それはもちろん知ってるけど……」

「でも実は、その上には『至高』っていうもう一つの状態が存在する。至高の状態の錬成物は、最良の状態よりもさらに別格に性能や効果が高くなってて、僕はその至高の錬成物を生み出すことができるんだ」

「な、なんでそんなことが……」

 できるのよ、と問いかけようとしたら、それを読んだクリムが先置きするように答えてくれた。

「【至高の錬成師】っていう称号を持ってるから、僕は限界を超えて錬成物を『至高』の状態に仕上げることができるんだよ」

「……」

 ず、ずるくないそれ?
 普通は最良が限界のはずの状態を、それを超えて至高の状態にまで引き上げることができるなんて。
 クリムに同じものを作らせたら、状態では絶対に勝てないということになってしまう。

「もちろんそれに伴った想像力が必要になってくるから、その分錬成術を磨いていかないといけないけどね」

 不満そうにそう言ったクリムは、私の手から丸薬を取り戻して最後に言い切った。

「至高の状態で完成させられることに加えて、僕もある程度は性質付与ができる。ま、そんなわけだから、横に並ばれることはあっても追い抜かれることは“まだ”ないよ」

「…………やけに自信満々じゃない」

 まあ、確かにそんな称号を持っているなら自信があるのも頷ける。
 それに私よりも断然知識が豊富で、色々なものを正確に錬成できるみたいだから。
 私なんかまだまだだな。
 クリムよりもすごい傷薬を作れるかも、なんて自惚れもいいところだった。
 でも、『“まだ”ないよ』か。
 それなりに腕を買ってもらえているとわかって、私は少し嬉しい気持ちになった。