「子供じゃないんですから1人で行けますよ」

「そう? 変な人だったらすぐにママに言うのよっ? 葵ちゃんは世界で1番お顔がかっこいいんだからっ! お隣さんがストーカーさんだったらママ心配だわ」

ほんと、自己肯定感上がるなぁ。

幼少期からことある事にかっこいいかっこいいと連呼され育ってきた僕。

ストーカー被害に遭ったことはないが昔曖昧な関係にしていた女が家まで乗り込んで来たことはあったのでそれ以来‪母の中で”‬かっこいい‪”‬は危険を伴う、という認識になりここまで心配性になってしまった。

母との電話は付き合いたてのカップルか、と突っ込みたくなるほど長い。

心配事がなかなか尽きないのだ。

でも昔から僕を沢山褒めてくれる母のことは好きなので反抗期真っ只中でもぞんざいに扱ったりすることは決してない。

きちんと最後まで長電話に付き合った。

「じゃあ、また遊びにいくわねっ! バイバイっ!」

「はい。また」

電話を切った後、まだ荷解きは進んで無いがとりあえず隣人に挨拶だけでも、と思い部屋の隅に置いていた紙袋を手に取る。

母が持たせてくれた粗品だ。

どうしような。

ベランダの洗濯物を見る限り、隣人はおそらく女の1人暮らしだ。

隣人が僕に一目惚れして家に入り浸られたら。