芹くんの扱いに頭を抱えそうになったとき、エレベーターの扉が音を合図にゆっくり開いた。
それと同時に、芹くんが私の手を取り呟いた。
「…ま、いーや。もう結羽の好きにして」
「っ…!!」
あまりにも自然と言われて、心臓がドクンと跳ね上がる。
全意識が芹くんに集中して、芹くんのこと以外考えられない。
繋がれた手と、久しぶりに呼ばれた名前。
どっちがドキドキさせているのかわからないけれど、きっとそうさせてるのは芹くんだからなんだと直感的に思った。
「…あれ。誰かいる」
宙に浮いたような感覚も、その一言で一気に地へと急落下。
「ど、泥棒…!?」
さっきとは違う意味でドキドキしちゃって、ドアノブに手をかけた芹くんを止めようとしたけど。
「んなわけないでしょ。どーせ凪だからノープロブレム」
とか言って、そのまま扉を開けてしまった。
「ちょ、え?!嘘…!?」
あまりの警戒心のなさに驚きつつ、オートロックっぽいから仕方なく私も後に続く。
玄関に足を踏み入れたところで、思わず息を呑んだ。
「ひ、ひろーい…」