普段の私なら絶対に怯えて逃げ去るところなのに、体が言うことを聞いてくれない。
「意外」と言いながら、目の前の彼が僅かに首を傾ける。
「…この街に用がないんなら、今のうちに帰ったほーがいーよ。もうすぐ“懇麗会”が始まる」
すると、パッと私から手を離して忠告するように付け加えた。
「“コンレイカイ”…?」
…って、なんだろう。
聞き取れたけれど、漢字も意味もよく分からないから首を傾げる他ない。
このままここにいたらダメな理由が、そのコンレイカイってやつなの…かな。
「そー。ほんとめんどい……あ」
イケメンさんが急にだるそうにし始めたと思ったら、何か思いついたのか言葉を止めて視線を私に戻した。
「……いーこと思いついた」
ニヤリと悪戯な笑みを浮かべ、私の手を取る。
「えっ…?あ、あの…っ。どこ行くんですか!?」
っていうか、私逃げないと…!!
今さら焦り始める私を気にもとめない彼は、ただ一言。
「君は俺がサボる理由ね。これ、決定事項だから」
清々しい笑顔を見せて、答えになってない返答をよこした。