後ろから聞こえたその声の主の姿を見るため振り向き、絶句した。
「…っ、!!」
…このひと、本当に人間?
暗がりの中でもよくわかる整った顔立ち、スラリと伸びた長い手足は、さながらモデルのよう。
恐ろしい程に美しく、この路地裏には不釣り合いなスーツを身に纏う彼の容姿が今はとても不気味に思えた。
そんな彼は私を怪訝そうに見つめてから、こちらに向かって一歩ずつ歩みを進める。
逃げ、なくちゃ………でも、なんで?
なんで、足が動かないの…?
見ず知らずの人が私に近づいてくる…今すぐにでも逃げないといけない状況なのに、なぜが身動きが取れない。
彼から目が離せなくて、逸らせなくて。
気がついたときにはもう、綺麗な顔が目の前にあった。
「族にでも襲われにきた?それならまぁ…俺が代わりに君を攫っちゃうけど、いい?」
薄い唇が弧を描き、細く長い指先が私の頬をするりと撫でて包み込む。
「…っ」
触れられたところが一気に熱くなって、ぶわあっと広がっていくのがわかった。
「あれ…抵抗しないんだ」
な、にこれ…わたし、おかしくなっちゃった?