「だーめ。結羽、離したらまた逃げるでしょ」



「に、逃げない…!逃げないから…っ!」



必死に抵抗してみるものの、芹くんの体幹が思ったより良くて全く動かない。



どうしてそんなに頑ななの…?と、ここまでする芹くんを不思議に思ってしまう。



すると、芹くんはまたもや真剣な顔をして窓の外に目をやった。



「どーだか。挙句の果てにこの家を出ていかれちゃったら、普通にやばいんだよ。もう自分の家に帰れないかもしれない」



タワーマンションの最上階から見える景色は、思ったよりも暗く冷たい雰囲気を纏っているように見える。



夜空に輝く星々が綺麗に見えるわけでもなく、無数にあるビルとさっきまでいた繁華街のネオンの方がより印象的に映った。



私が住むアパートとはまるで違う光景が目に焼き付けられていく。



「…“コンレイカイ”っていうのが関係してる、とか?」



なんとなくそう思って言ってみると、芹くんは静かに頷き足を動かす。



「…ちょっと話そう。懇麗会のことも、俺たちのことも」



そう言われた時にはもう抵抗する気も起きなくて、芹くんの温もりを感じながらぼんやりと夜の世界を眺めていた。



壁に掛けられている時計の針が、今日が昨日になったことを知らせてくれた。