「…なんでもなくないでしょ、その顔。なんで嘘つくの。俺、結羽に嫌なことしちゃった?」
「っ…」
無理やり見ようとするわけでもなく、ただ優しく抱きしめられて。
「言ってくれないとわかんないよ。結羽が泣いてるの見るのは俺もやだ」
まるで、泣いて悲しんでいる彼女をなだめるみたいな言い方をする芹くん。
「っやめて…優しく、しないで…っ」
その甘さに絆されそうになって、必死に芹くんの胸板を押し返す。
「わたし、優しくされるのに慣れてない、から…。芹くんの優しさを、勘違いしちゃうの。彼女でもない子に優しくしちゃ、ダメだよ…」
涙をこらえて絞り出した言葉は、消え入りそうなくらい弱々しく感じた。
「…結羽。こっち向いて」
「っううん、むり。今、絶対ひどい顔してるから…っ」
ぐしゃぐしゃの顔なんて見られたくないっ…。
絶対に向いてやるもんか、と顔を芹くんの胸にうずめる。
こうなったら意地でも見せないように、芹くんに思いっきり抱きついちゃえばいいのかも…?
私にしては良い考えを思いついたと思って、早速試してみることに。