総司「ささ、こっちです。 まずは呉服屋さんですね」



 手を引かれて、一緒に歩く。



 沖田さんは、周りの人たちと比べれば背は高いが細め。 だけど意外にも、手のひらは分厚くて、ゴツゴツと手の甲は骨張っている。



 流石、剣士の人って感じ…。



総司「失礼しま〜す」



 敷居を跨いで中に入っていくので、私も引っ張られないようについて行く。



店主「…これはこれは、壬生浪士組の…。」



総司「この人に、着物を三着と、袴を一つ見繕ってもらいたいのですが…」



 ズイッと、背中を押されて前に出された。



 呉服屋の男の人は、驚いたように目を見開いた。



店主「へぇ…分かりんした…で、では、こちらへ…」



 店主の近くに寄ると、反物がたくさん並んでいる。



店主「お気に召すものはありますやろか。 あんさんみたいな色白の御方には、今着てはるような、青み掛かった着物が ええと思いますぇ」



 さっ、と肩に反物を当てられる。



総司「確かに、似合ってます。 雪乃さんって、とっても色白で華奢ですもんね〜」



店主「……雪乃はん…?」



 ……あれ…? なんか私の名前を復唱してるんだけど…。



総司「…知り合いなんですか?」



『い、いえ…』



 こそこそと、店主に聞こえないように話し合う。



店主「……あんさん、女子(おなご)なんでっか?」



 ……ああっ…!! やっばい…! 名前が雪乃だから…!!



 沖田さんの方に目を向ける。



総司「ぴゅ~ぴゅ~ぴゅ~」



 これらから目を逸らし、唇を尖らして口笛を吹いている。



『え、ええ…まあ…』



 恨めしい気持ちで沖田さんを見ながら肯定する。



店主「……雪乃はん。 そのお下がりの他に、着物はありしまへんの?」



『そうなんです…』



店主「えらいこっちゃ! 女子がそんな服装(なり)して…こっちきいや、!!」



 手を引かれて、奥に連れて行かれる。 沖田さんも、後ろをついてきた。



店主「好きな反物選びぃ…!」



 奥の部屋は、色とりどりの反物がある。



総司「わぁ…凄いですねぇ…」



『…で、でも…お金そんなにないんじゃ…』



 どれも、目が眩みそうなほど上質なものだと一目で分かる。 他に刀とか草履とかも買わなきゃだし、ここでそんなに使えない。



店主「半分にまけたる!! とっとと選びぃな!!」



『はっ、はいぃ…!!!』



 睨みを利かされて、若干怯えながら反物を選んでいく。



 藍色、紺色、黒色の無地のものを選んだ。



総司「折角なんですから、もっと明るい色を選べばいいのにぃ…」



店主「あんさん、わてを舐めとるんか!! こんだけええ反物、えらいあんのに 地味な色しか選ばんて…!!」



『な、舐めてないです…! 大真面目です…!!』



 最初は店主、壬生浪士組だから及び腰だったのに…今じゃ怒られっぱなしだ。



店主「チッ…しゃあないな…。 せやったら、もう一着、女子用の着物()うてったらどうや? 半分にまけとるんやから、買えるやろ?」



 え…? 今、舌打ちしたよね…??



 めちゃくちゃ、チッ…って。



総司「そうですねぇ…もしかしたら、女子として潜入捜査とかあるかもしれませんし…土方さんも怒らないでしょう。 一着、買いましょっか!」



『……そうですね!』



 まあ確かに…今まで着物なんて来たことなかったし…。



 息を巻いている店主を見てから、チラリ と視線を反物に向けると、豪華な模様があしらわれた女の子用のものがたくさん目に入る。



店主「さっきは男やと思うてましたけど、女子なら赤色も似合うと思いますぇ。 わて、決めとるんです。 色白な御方は男なら藍色、女子なら赤色…ってな」



 これなんかどうやろ、と肩に当てられたのは、肌触りの良く 綺麗な梅の花の模様が美しい。



総司「わぁ…とっても綺麗ですよっ、雪乃さん!」



店主「…こんな ええ恋人いてはって、あんさん羨ましいな…。」



 ………恋人…?!



『ち、違いますよ…! 上司です…!』



総司「なっ、何 言ってるんですか…!! からかわないでください…!!」



 カーッと顔を赤く染める沖田さん。



店主「なんや、違うんか。 …まあええけど、ほな この反物で仕立てるさかい、採寸させてもらいますわ」



 手招きされて、近くに寄ると 店主は鯨尺(くじらじゃく)を持った。



 この時代、メジャーなんてものはないから、ものさし のようなもので採寸をしていたらしい。