総司「…では、雪乃さん。 サラシをつけたら、お着替えを手伝いましょう」



『っ…ええっ?!』



 着替えを手伝うって…か、身体…見られるってこと…?!



総司「ええっと…すみません。 後ろ向いているので、襦袢を羽織ってください…着付は私がしますので」



『わ、分かりました…』



 沖田さんが後ろを向いたのを確認すると、寝ていたときに着ていた襦袢を脱いで、サラシを胸に巻き付けた。 その後に、新しい襦袢を羽織った。



『あ、あの…沖田さん…』



 そう呼ぶと、振り向いた。



総司「ちょっと失礼しますね」



 わっ……。 腰辺りに沖田さんのぬくもりを感じる。



 シュルシュルと、紐が結ばれていく音が聞こえる。 沖田さんとの距離が近くなって、なんだかドキドキしてしまう。



『う゛っ…』



総司「ああっ…すみません…! キツくし過ぎました…」



 やばいやばい…絞め殺されるかと思った…。



 緩められて、結ばれる。



総司「この着物を着てくださ〜い」



 渡された着物は、藍色を基調としていて、沖田さんが着れば、さぞ様になるんだろう。



 言われた通りに着ると、着物の袖に襦袢の袖を通される。 またもや、紐で結ばれた。



 めっちゃ手慣れてるなあ…私もこれが自分で出来るようにならなければいけないのか…。 覚えられる自信がないなぁ…。



総司「さ、次が最後ですよぉ…袴です!」



 手渡されたのは鼠色の袴。 スカート状になっている。 履いてみると、どんどん結ばれていき、苦しくてドキドキどころではなくなった。



 この時代、ゴムなんてものはないから、締め付けられるのみだ。



総司「…よしっ、出来ました! ………」



 なになに、なんで黙るの…?!



総司「…雪乃さんって、袴も似合いますねぇ」



『あ、ありがとうございます』



 私の身長は、168センチほどで沖田さんは171センチほど。 身長は近いから、さほど丈の長さの違いは気にならなかった。



総司「では、行きましょうか」



 手を引かれて、玄関に連れて行かれる。



 まだ寝ている人が多いようだから、静かに足音を殺しながら歩いた。



総司「これを履いてください。 私のお古なのですが、差し上げます」



 さっ、と目の前に出された草履。 おそらくこれも、沖田さんのものなんだろう。



『ありがとうございます…!』



 履いてみると、やや踵の方に余りがあったが、履けないわけでもないからいっか。



 立ちあがって、門から外に出る。 ちゃんと、裾を持ち上げることも忘れずに。



『……うわぁ…』



 一面に、壬生菜畑が広がっている。 すぅーっと、息を吸うと新鮮な空気が肺を占めた。



総司「そんなに珍しいですか?」



『…ええ、まあ…』



 江戸時代、ここらへんは京のはずれ なんだけれど、令和の時代では中心部だ。



 沖田さんと一緒に歩いて、少し経つと 家がたくさん建ち並んでいる通りに出た。 町並みも、若干の名残はあるものの、自分の記憶は、頼りにはならなそう。



総司「この通りは四条通り近くです。」



 きょろきょろと、周りを見回す私に教えてくれた。



『…沖田さん、今更なんですけど、……明け六つ時って店とか開いてるんですか?』



 昔は、午前6時のことを明け六つ時と言ったらしい。 間違って、午前6時とか言ってたら、疑われてしまいそうだから、気をつけないと。



総司「大体の店では、"店は明け六つ時に開き、夜は暮れ四つ時に錠をおろし"と、始まりと門限が決まってるんですよ〜」



 そうなんだ…初めて知った…。