もちろん渡したのは神楽さんで。

あたしは神楽さんの後ろに隠れていた。


今日は……衣吹さんのお母さん……、睦美(むつみ)さんはいないんだ……。




台所から出てあたしの部屋に戻る途中。


「あの、神楽さんって……今日は、忙しいですか?」

「んー?どうしたんだ?何か用事?」

「いや、あの……庭に……出ようかなって……。だから一緒に……付いて、来て、くれないかなぁ……って……」


ドキドキバクバク。

誰かに伝えるのってこんなに緊張するんだ……。



「お。出る気になった?」


小さく頷けば、神楽さんの手があたしの頭に乗る。


瞬間、ドキンと胸が弾けた。


「一歩前進。やるじゃねーか」


笑った!

神楽さんが笑った……!


昨日は口角を上げるくらいだったから、そんなの笑ってないって言われればおしまいだけど、今のはちゃんと笑ってる!

ちゃんと微笑んだ!!