「薬が効き始めたのか……」
ボソリとそう呟いた神楽さんは、あたしをお姫様抱っこをするように抱きかかえた。
まだ意識はある。
ちょっと頭がポーッとするだけ。
だから「神楽さん……」と名前を呼んでみた。
まだ大丈夫って伝えたくて。
「いいから黙って」
あたしを抱きかかえたまま、神楽さんは組長のもとに行った。
「組長。羽瑠が薬を盛られました」
「はぁ!?何の薬だ!」
「きっと……ヒートを誘発させるものかと。フェロモンが強くなってきてます」
「桐龍組の野郎……!」
怒りを露わにする組長を見て、咄嗟に顔を出す。
「あ、あたしなら、まだ大丈夫です……!」
そんなあたしを見て数秒。
組長と神楽さんは互いに顔を見合わせた。
「薬の効能もわからないので、羽瑠を連れて近くのホテルに滞在する予定です。暫し休暇の許可を」
「……わかった。くれぐれも目を離すなよ」
「ありがとうございます」
いつものように綺麗に頭を下げた神楽さんは、みんなとは違う方向に向かって歩き出したんだ。