衣吹さんが拐われた。
そう思うと言葉が出なかった。
と、言うより頭が真っ白になったんだ。
何も……考えられない。
考えることも、瞬きをすることも、息をすることも……全部忘れかけた時。
耳から入り込んだ激しい音にハッと我に返る。
「……っ」
紙をバリバリに裂いた敦雅さんの顔が見れなかった。
殺気に満ちたオーラが漂ってる。
「桐龍組にやられたのか?」
「す、すみません。見張ってたのバレてしまって……」
ボロボロなのにものすごい勢いで頭を下げる幹部達。
幹部の人が怪我をするのは今日だけで2回。
1日で2回も怪我するなんて……普通じゃない。
桐龍組が、
そこまできてる───。