やだ……。
今は会いたくない。
ただひたすらに走って、神楽さんから逃げ切りたかったのに。
グッと腕を引かれ。
───ドンッ
壁に押さえつけられた。
「何で逃げるんだよ」
「やっ……離してください」
力一杯抵抗しようするけど敵わない。
やだやだやだ。
ずっと無言だったのに。
何で今更……追いかけて来るの。
「あたしのこと捨てたくせに……!」
「捨ててねぇよ!!」
神楽さんの怒鳴り声に近い叫びが静かな廊下に響き渡る。
それと同時に、初めて聞いた声のトーンに驚いたんだ。
いつも冷静沈着な神楽さんが、声を荒げるなんて……。
「捨ててねぇよ……羽瑠の事」
「……」
ねぇ……どうしてそんな辛そうな顔をするの……?