わからない。


だけど走らなきゃって。



あたしが走り出す瞬間、神楽さんは逆方向に走った。



振り向いちゃダメ。


相手が何人いたのかとか全然わかんないけど、神楽さんの言う通りにしてたら絶対大丈夫だから。


そう自分自身に言い聞かせた時。



汗で、ズルッと花束が落ちた。



「あっ……!」


一瞬だけ立ち止まり、拾おうと手を伸ばすと。



「何してんだ!走れ羽瑠!!」


神楽さんの叫び声にビクッと肩が上がった。

それと同時に、ほぼ無意識に振り向いてしまって。



ドッと今までにないくらい心臓が跳ねた。



男の人が猛スピードで走ってくる。


逃げなきゃ。

頭ではそう思ってるのに、身体が動いてくれない。



距離が縮まるのはあっという間で。


あたしは、その男の人に肩を掴まれた。