ギュッと抱きしめ合っていると、衣吹さんがあたしから離れた。


「ごめん……顔洗ってくる」


視線を逸らす衣吹さんはどこか居た堪れない様子だった。


きっと恥ずかしくなったんだろうな。

あんなに泣いてたんだもん。



「うん、わかった」


去って行く衣吹さんを見送って、襖をパタンと閉める。


そしたら。


「人気者だな」

「え?」


今まで黙っていた神楽さんが口を開いた。

だけど真っ直ぐ前を向いたままだから、独り言にも取れてしまう。


「そんなこと……みんなが優しいだけですよ」


窓辺に行くのも変だと思い、襖を背に軽く寄りかかる。


さっき作ってしまったしんみりとした雰囲気に後悔しつつ、ぼんやりと畳を眺めた。

そして意味も無くトントンッと、つま先を上げたり下げたりする。