その男の人はまだ食事中だったのに、席を立ち、深く頭を下げた。
「ああ」
スッと片手を上げただけ。
たぶん、あの厳つい男の人は神楽さんより年上だと思う。
だけど、あの男の人の態度と神楽さんの態度に差がありすぎて……神楽さんの方が立場が上なんだと思った。
「羽瑠」
名前を呼ばれて、振り向いて。
神楽さんとの距離が余りにも近くてびっくりした。
ぅわわっ……!
あ、あたしいつの間に神楽さんの腕に!?
慌てて距離を取ろうとしたけど、グッと腕を掴まれた。
「何してんだよ。こんなところで騒いだら危ねぇから」
「ご、ごめんなさい」
うぅ……やっちゃった。
1人で動揺して恥ずかしい。
視線の行き場を見失って。
あたしの腕を掴む神楽さんの手を見つめて、ドキドキと早くなっていく鼓動を身体が感じとる。