しばらく泥に近い暗がりの道を歩くと、広場らしき場所に出た。

「ここが、我々がよく集う場所だ」  

 町長は、微笑みながら私達へ語りかける。
 ふと、ケインの顔が目に入った。いつものような笑みも軽い雰囲気もない。不気味な程無表情だ。

「結論から言おう。レジスタンスに入らないか?」
「レジスタンス…?」 

 リークは、何を言っているのか分からないという表情で町長に尋ねる。

「反皇帝キムの勢力さぁ」
「ケイン…もしかして」
「おいらも、レジスタンスの一員だからな」
「どうする、2人とも」

 いきなりそう言われても、答えなど出ない。

「女の私にも、レジスタンスに入れと?」
「ああ。性別で差別なんてしないよ。それにナターシャという女に、皇帝はご執心のようだしね」
「どういう事です?」
「皇帝は密かに、ナターシャという名前の女を集めているという情報が入ってな」

 ナターシャという名前の女を集め、何をする気なのか。どうせ良からぬ事のような予感しかしない。

「さあ、どうする。レジスタンスに入るか否か」
「入らなければ、死ですか?」
「ナターシャ…まあ、その手は取りたくは無いがな」

 とは言いつつ、町長のズボンのポケットには、ピストルの持ち手がうっすらと見えている。

(…どうする)

 リークの顔を見た。リークの顔からは血の気が引いているのが分かる。

「リーク…」
「…」

 答えなど出るはずが無い。だが、否の意見を取ればどうなるのか…と思えば、次第に私の心は賛成の方に傾こうとしている。

(だけど、私達は静かに暮らすって決めたんだ…)

 戦争なんて知らない、関係ない。私はリークと2人で静かに暮らすんだ。山の中で静かに暮らすんだ…
 私達に戦争なんて必要無い。

「私は、戦争なんて関わりたくない…」
「ナターシャ?」
「戦争なんて知らない。私達には関係ない。リークと一緒に静かに暮らすのよ…」

 想いが、次から次に口に出ていく。もうキムと関わるのも面倒だし、あの処刑の時、私はもう決めたんだ。

「戦いたいなら、貴方達だけでやれば良い。私達は戦いたくない…!」
「ナターシャ…」

 リークが消え入りそうな声で、私の名前を呼んだ。

「でも、ナターシャ…」
「リークは戦えるの?」
「…」
「人を、狼男を…殺せるの?」

 リークは目を伏せる。町長もケインも黙っている。

「…無理だ」

 リークの、まるでぼろぼろの雑巾のような声が響く。