この繁華街には見覚えがあった。この街・ハイランドは人とリークのような獣人が共に暮らし、商売をしている地区である。
 様々な文化が入り混じったこの地区には、多くの店が軒を連ねている。実際お香か何かの独特な香りが既に鼻腔まで届いてきている。

「じゃあ、そこの坂を下って下へ降りよう」
「え、ええ…」

 草木の生い茂る坂を下っていくと、次第に草木が減り、ちゃんとした道になっていく。下り終えた先は路地裏になっており、リークに離されないようついていくとすぐさま商店が立ち並ぶ通りに出た。

「いらっしゃいませー」
「いらっしゃい!」

 様々な声が飛び交い、様々な人や獣人が歩いている。

「わあ…」
「はぐれないように、ついてくるんだ」

 リークは私の手を再度握り、人が行き交う街へと飛び込んでいった。

(すごい…)

 私はこの町の熱気に圧倒されていた。人々から放たれる熱量が、街の中を所狭しと飛び交っていく。これは宮廷では見られなかったものだ。
 そしてここでは、狼男はじめ獣人は人間と共存できている。迫害を受けている獣人が、人と共存できるなんてと最初は思ったが、すぐに思い出した。…ここはそういう場所なのだと。

「これと、これを買わないと」

 リークは無問題だというように、次々と買い出しを済ませていく。

「あとは…ナターシャの服だ」
「買ってくれるの?」
「ああ、せっかくだ」

 リークが立ち寄ったのは、女性用の服が売られている店だった。店内は狭いものの、品数は想定よりも多い。

「いらっしゃいませー」

 店主の老女が笑顔で出迎えた。老女が胡坐をかいている右横には、見覚えのあるドレスが飾られている。

「それは…」
「ああ、これはね。今は亡きナターシャ妃が着ていたドレスだよ」

 私が着ていたドレスだという。聞けば、私が侍女に与えたものが巡り巡ってこの場へと流れ着いたのだった。

「でも、ナターシャ妃が着ていたドレスと聞くと、みいんな逃げ出してしまってねえ…やれ呪いのドレスだのなんだのと言って」

 老女が困った顔を浮かべていると、リークはすかさず口を開いた。

「欲しい。いくらだ」
「えっ、買ってくれるのかい」
「ああ。といっても他にも買いたい服はあるが」
「そうか…じゃあただであげるよ」
「えっ」 

 その言葉に、私もリークもただただ驚く。

「せっかくだ。おまけという事にしといてやるよ」
「あ、ありがとうございます…!」
「ふむ…お嬢さん、このナターシャ妃のドレスが着たいのかい?」

 勿論自分が着ていたドレスだし、着たいに決まっている。

「お嬢さん似合うと思うよ。目鼻立ちがはっきりしていて、綺麗だからねえ」
「ありがとう、ございます」

 その後、ブラウスや下着類も合わせて購入し、私とリークはこの街を後にした。家に帰宅後、そういえばリークはどうやって収入を得ているのか?という疑問が浮かび上がる。

「ねえ、リークはどうやって収入を得ているの?」
「ああ、この山奥には金と水晶が取れる場所があってな。それを売っている」