という、昨夜の反省は杞憂に終わった。鳥の鳴き声で目が覚めて、リビングに立ち寄ると丁度リークが朝食を準備している場面に出くわしたのだが、彼はいつも通りにおはよう。と声をかけてくれた。

「おはよう、リーク」
「もう朝食食べるか?」
「ええ、そうね。…何か手伝える事はある?」
「いや、もうあらかた終わった所だ」

 机に置かれた白いお皿の上には、食パンにベーコンと目玉焼きがのっていた。

「あら、美味しそう」
「早く食べよう」
「じゃあ、頂きます」

 と言った所で、手元にフォークとナイフが無い事を知る。そんな私を置いてリークはむしゃむしゃとパンにかぶりついている。

「あ、どうやって食べれば…」
「パンを手で掴んでかぶりつけばよい」
「え?!」

 仕方ないので、リークの言う通りにパンを両手で持って勢いよくかぶりついた。

「っ…美味しい」

 ベーコンの塩気と、半熟気味の目玉焼きの濃厚な甘味が混ざり合って、丁度良い。外はさくさくで中は柔らかいパンにも合ってとても美味しい代物だ。

「美味しいか」
「ええ、とても美味しいわ」
「そうか。どんどん食べろ」

 リークは耳を動かしながら柔らかな微笑みを浮かべて、私の方を見ると、またパンをむしゃむしゃとかぶりついていくのだった。改めて見直しても彼の食べ方は結構豪快であるように見える。

 準備と支度が終わると、いよいよ出発の時間となる。荷物を持って、リークの後をついていくようにして家を出た。

「ここからしばらく真っすぐ歩くと、水鏡がある。まずはそこまで移動しよう」
「分かったわ」

 獣道を歩く。時々草木を手で払いのけながら、日があまり差し込まないうっそうとした森の中を行くと、いきなり目の前に井戸のようなものが現れた。

「これが水鏡だ」
「これが?」
「さあいくぞ」

 リークはわたしの手をぐいっと掴むと、水鏡の手前にある階段を駆け上がって、ドボンと一気に落ちた。

「!!」

 溺れているのかよく分からないうちに、私の足は地上を掴んでいた。

「ついたぞ」
「え…え?!」

 眼下に広がっていたのは、広大な繁華街である。