「なぜ…?」

 リークは彼女にそう尋ねる。その声は大きく震えている。

「この地を離れたくないからよ」
「でも…」
「大丈夫、この地には結界が張ってあるし、心配はいらないわ」

 そう語るリークの母親に、メイルは迷彩魔術か何か?と尋ねるとリークの母親は頷いて肯定する。

「それに、この地には愛着があるし…守らなきゃいけないものもあるからね…」
「守らなきゃいけないもの、ですか?」

 私の質問に対して、リークとリークの母親は同時に家の横にある大樹を指さした。

「あれは千年樹。私達の一族がずっと守り抜いてきた証。だから私はここに残りたいの」

 リークの母親の声は、筋が通っているのがわかる。メイルは千年樹を魔力に満ちている。と語りながら目を凝らしている。

(これ以上、説得しても無駄だろう)

 そんな中、私はそう察した。後はリーク次第だ。私はちらりとリークを見やる。
 リークも薄々気がついてはいるが、納得するのに時間がかかっているようだ。

(ここは口出ししない方が良い) 

 私は黙ってリークを見る。するとリークが口を開いた。

「分かった…」

 重苦しい声から、リークの決意含めて複雑な感情が伝わって来る。

「リーク、生きるのよ」
「ああ」
「皆さん、息子をよろしくお願いします」

 リークの母親はそう頼むと、頭を深く下げた。

「行こう」

 リークの声。私とメイル、マッシュは黙ってリークについていく。リークの母親はまだ、頭を深く下げたままだ。

「あの、また落ち着いたら来てもいいですか?」

 考える間もなく、私の口からその言葉が出た。リークの母親は頭を上げて驚きつつも、柔らかい笑顔を見せた。

「ええ、ぜひ来てください!」
「ありがとうございます」

 こうして、私達はまた歩き始める。