キムのいる王の間には、続々と陸軍大臣や軍の将校らが戦況の報告の為に訪れる。

「大臣よ、〇〇軍の戦況はどうだ?」
「よくやっております。相手の方は被害甚大と聞いております」
「そうか、引き続き励むよう伝えよ」
「はっ」

 このように国の軍は素晴らしい戦果を挙げ、快進撃を続けていた。
 だが、キムは心の奥底では焦っていた。まだ自身の命を狙おうとした狼男は逃亡中である。それに大臣の中では戦果が果たして本当なのか、疑問視する者もいた。

(どうにも、心の底から信用が出来ぬ)

 と、キムは考えていた。だがその戦果を信じたい気持ちも当然あった。そんな板挟みになっているキムは王の間から一度下がり、私室へと入ると、後宮直属の占い師がやってくる。

「陛下、随分お疲れのようですね。マッサージでも受けます?」
「…」

 キムは占い師を見る。この紫色のベールで身を隠した占い師は女性で、魔女の一族出身でもある。キムは考えた末、彼女にこう提案をした。

「今の戦況を占ってほしい」
「畏まりました」

 占い師はその場でタロットカードを出して占い出した。しばらくしてキムの顔を見上げながら、結果を申してもよろしいでしょうか?と尋ねる。

「良い、申せ」
「結果を簡潔に言うと、快進撃と苦戦どちらも…ですね」
「どちらも?片方だけでは無く?」
「はい。東は快進撃、西は苦戦…と出ました」
「…陸軍大臣を呼べ」

 傍にいた家臣にそう低いトーンで告げたキム。程無くして陸軍大臣がやって来た。

「お呼びでございますか、陛下」
「貴様、何か隠している事は無いか?」

 単刀直入に問うキム。陸軍大臣は勿論否定するが、その顔つきからはどう見ても焦りが見えた。

「占わせた所、快進撃と苦戦両方出たのでな…」
「うう…」
「真実を言え」
「…申し訳ありませぬ、少しだけ誇張してしまいました…」

 陸軍大臣は観念した様子でそう答えると、ゆっくりと膝を折りながらキムに跪いた。

「やはり苦戦している地域があるか」
「はい…さようでございます」
「どこだ」
「サンバス一帯です」

 サンバスはムルーリよりもリークやナターシャらが住まう地域寄りの場所である。

「敵国の火炎放射に手を焼いて降りまして…」
「なぜ、対策はせぬ」
「…よ、予算が…」
「予算だと?」
「申し訳ありませぬ、予算が足らないのでございます!」

 と、陸軍大臣が叫ぶ。その叫びにキムは更に機嫌を悪くする。

「予算が足りぬから負けるのか?!」
「いや、めっそうも…!予算があればより…!」
「貴様は陸軍大臣だろう?!それくらいなんとかせい!」
「は、ははーっ!」
「もうよい、下がれ!追って沙汰を言い渡す」

 陸軍大臣は顔をぐしゃぐしゃの汗塗れにしながら、その場から去っていく。