水鏡が中庭に設置された事で、残りはリークの家の迷彩魔術の強化を残すのみとなる。

「じゃあ、迷彩魔術もやっていくわねー」

 メイルはその辺似落ちていた枝を一本拾うと、大樹の幹に魔法陣をガリガリと書いていく。
 私はここで、念には念を入れるため、リークの家だけでなくこの森の周囲一体に迷彩魔術を張るようメイルにリクエストした。

「わかったわ。…よし。これで大丈夫よ」
「ありがとうございます…!」

 これでひとまずは安心だ。私は改めてメイルとマッシュにお礼を伝える。

「本当にありがとうございます。助かりました」

 リークも私と同じように、お礼と感謝の気持ちをメイルとマッシュに伝えた。

「いやいや、また困った事があればいつでも言ってくれ」
「ええ、すぐ助けにいくからね!」

 こうして、リークの家のちょっとした改修?は全て済んだのだった。
 これからはリークの家からあちこちへ移動が可能になる事を考えると、この水鏡の移築はとても意義があると言っていいだろう。
 私は自宅に戻るメイルとマッシュを見送った後、改めて中庭に目を通す。

(畑に井戸に水鏡…これなら生活に困る事は無さそうだ)

 ふと、リークに視線を向けると、リークは穏やかな表情を浮かべていた。

「これなら、静かに暮らせそうだ…」
「そうね」
「召集からも免れる…」

 確かに召集令状を持った兵士からは完璧に逃げられるだろう。あとリークが気をつけなければならないのは…出先での振る舞いくらいか。

(変装すればなんとかなるか。あの街なら変装する必要も無さそうだが…召集状況にもよるか)

 そしてこの地が戦場になるような事が無ければ良いのだがと念じながら、私とリークは家の中に戻ったのだった。

「ナターシャ」
「リーク?」
「これからは…一緒にゆっくり静かに暮らそう。戦争なんか知らない。静かに暮らすんだ」

 リークの目には何やら決意のようなものが感じられた。
 当たり前だ。私もここで静かに暮らしたい。

「ええ、一緒よ」