水鏡で転移し、到着した先からまたしばらく歩いていくと、リークの足がぴたっと止まる。それと同時にがさがさと何かが動く音がした。

「!」

 リークはすぐさま猟銃をセットする。私は彼の動きを目で追っていると、前方に獣がいるのが見えた。鹿だ。
 鹿は木々の中に身を隠している。これでは銃弾を命中させるのは少し厳しいか?

「っ」

 すると、鹿が飛び出してくる。がら空きになったのを見逃さずリークは引き金を引き、見事に仕留めた。

「やった」

 近くに駆け寄ると鹿はかなりの大きさをしていた。リークは鹿の息が止まっている事を確認し、背中で背負いながら自宅へと戻っていくので、私も付いていく。

「思ったよりあっさりだった」
「そうなの?」
「ああ、最近はこういうパターンが多いかもしれない」

 家に戻っていく途中。またもがさがさと音がするので、リークが足を止める。

「…?」

 耳を澄ましてみると、何やらがさがさと言う音の他にも、言葉が聞えてくる。これは人間が近くにいる事を表していると感じた私はすぐさま伏せた。

「…あれ…?どこにいるんだ、リーク…」

 一瞬だけ人間の姿が見えた。ああ、間違いない陸軍の兵士だ。私は小声でその事をリークに伝える。

「…わかった。家に帰ろう」

 物音を出さず、伏せたまま移動する。幸い兵士は遠くに行った為なんとか家まで到着する事が出来た。私とリークは急いで鍵を開けて家の中に入ると、ドアを閉める。

「はあ…」
「危ないところだった…」

 リークは一息入れると、鹿の下処理の為、鹿をもって中庭に向かって行った。

「大丈夫なの?」
「中庭なら大丈夫」

 リークの背中を見送った私は、ふうと息を吐く。
 あの兵士はリークの名前をつぶやいていた。おそらくは召集令状を持ってきた兵士だろうと予測する。

(このままでは、まずい…)

 リークの召集を阻止するため、何か考えなくてはならない。