私は朝食を食べ終えると、クローゼットから麦わら帽子を取り出して被る。

「よし」

 今日は山のふもとで買い物をする日。そしてリークの狩猟にも同行するのである。

「ナターシャ、準備は出来たか」
「ええ」
「では行こう」

 家を出て、ドアの鍵を閉める。森の中は草木が揺れる音と、小鳥のさえずり以外聞こえてこない。

「この周辺には獣はまだいないようだな」
「…そうね」
「だが油断はするな。熊や猪もいるからな」
「分かったわ」

 リークについていきながら、歩いていく。森の中はうっそうとしていて、少し暗い。すると水鏡が見えて来た。

「先に買い物でもするか」
「ええ」

 水鏡で山のふもとまで転移する。到着し、道なりに進んでいくとぽつぽつと集落が見え始めた。
 山のふもとはあの街とは違って閑散としているが、それでも商店はある。

「いらっしゃいませ」

 商店に入り、野菜と日用品を購入する。商店の主人であるおばさんはにこやかな表情を浮かべている。がそのにこやかな笑みはどこか硬さを覚える。

「あの、どうかしましたので?」

 と、リークが会計をしている隣から彼女へ声をかけてみた。

「ああ…もう戦が始まってしまうと思うとねえ」
「そうなんですか?」
「ああ、召集が始まったようだ。ここもじき来るだろうさ」

 それを聞いてリークの表情が一気に暗くなる。

「そうですか…」
「ああ…」

 会計を済ませて商店を出てから、リークの足は見るからに速くなった。ここまで速いと、なかなか追いつけない。

「り、リーク…!待って!」
「ナターシャ…」

 水鏡が近づいてきた所で、ようやくリークの足はストップした。

「はあ…はあ…」
「ナターシャ…」
「ごめんなさいね、私こう見えて足は遅い方なの」

 と言うと、リークはすまない。と謝罪の意思を示したのだった。