「ありがとうございました」

 私とリークはメイルにお礼を言って家を出た。これから昨日取れた水晶を持って、業者の元へと移動する。業者はここから北の方にいるようだ。
 本来は水晶窟に直接来てくれる予定だったが、どうやら昨日の夜、急遽業者がいる場所へいかなければならなくなったとマッシュから聞いたのだった。

「では、行こうかの」
「はい」

 獣道を無言で、草木を踏みしめながら歩いていく。どれくらい歩いただろう、1.2時間くらいだろうか。すると木々が開けて来た。

「ここは、峠か」
「そうじゃ、ここを超えたら到着じゃな」

 無人の峠を越えて道なりに歩いていくと、大きな木造の建造物が見えて来た。建造物の周りには水晶柱がカバーに掛けられた状態であちこちに置かれてある。

「マッシュじゃ!誰かおらんか!!」
「おお!マッシュか!!」

 建造物から現れたのは、これまた体格の良い狼男だった。ぼさぼさの黒髪に狼耳、口ひげを蓄えたその狼男はいかにも豪快な印象を受ける。

「おお、ヴァイラールか!!水晶持ってきたぞ!」
「わかった、じゃあそこに置いといてくれ」
「リーク、ナターシャ。この狼男が業者のヴァイラールじゃ」
「初めまして。ナターシャです」
「リークです。よろしく」

 リークと共に挨拶を交わすと、ヴァイラールはがはは!と笑う。

「そうかしこまらんでもいい、気楽に行こうぜ!」
「は、はい…」

 やはり豪快な性格の持ち主のようだ。リークは若干引いているようにも見える。
 しかし作業は彼の手先の動きからして、繊細で慎重に進めていくタイプのように見えた。

「こんなもんかな、よし、換金しよう」

 換金結果は…なんとかなりの金額になった。私が掘った水晶柱の評価も高かったようだ。ヴァイラールからお金を受け取ると、マッシュとリークは大事にリュックにしまう。

「いやあ、どれも質の良い水晶だよ!」
「これだけの値がつくとは…」

 リークが目を見開いて水晶を眺めている時だった。建造物の向こうからざくざくと音が聞こえる。現れたのは2人の兵士だった。服装からして陸軍の兵士なのは間違いない。

「おい、そこの狼男!金を渡せ!!」
「は、はい」
「急げ!!」

 ヴァイラールは慌てて建造物の中に入り、金をいくつか渡した。兵士はそれらを受け取ると、お金を渡す事無くその場を後にする。

「あれは…」
「なんだ…?」

 帰ってきたヴァイラール曰く、最近はあのような野蛮な行為をする兵士がちょくちょくいるのだという。

「拒否すれば捕縛されるか鞭でたたかれる。だから渡すしかない」

 ヴァイラールはそう、残念そうにつぶやいた。