「いただきます」

 一斉に皆、各々に食事を進めていく。私はスプーンでシチューをすくうと、口の中に入れた。

「美味しい」

 これはもはやビーフシチューだ。鹿肉も癖が無く、野菜の味もしっかりスープに染みこんでいる。ライスとの相性も抜群だ。
 キャベツの炒め物も塩気が効いていて美味しい。

「うん、美味いのう」
「あらあら、おかわりあるからたくさん食べてね」

 結果的にはシチューをおかわりさせて頂く事になった。

 食後の後、休憩してから私はメイルに部屋を案内させてもらった。2階にあるその部屋は、かつてメイルの娘が使っていたものだという。

「どうぞ、入って」
「はい」
 
 シックな装いに、ベッドとテーブルと言ったちょっと古めかしめの調度品は、後宮にて侍女たちが暮らす部屋とうっすら似ている気がした。

「トイレはこの階にあるわ。お風呂は今から案内しましょうか?」
「ええ、お願いします」

 お風呂は1階にあった。脱衣所も設けられており、白いバスタブも広々としている。リークの家の浴室及びバスタブとは違った趣がある。

「今日はバラをお風呂に浮かべましょうかねえ」
「バラですか?!」

 聞けば疲労回復の魔術がかけられているのだという。メイルはさっそく、お風呂のお湯を沸かしてバスタブに真っ赤なバラとピンクのバラの花びらをぱらぱらぱら…と巻いた。

「これで疲労は回復、朝までぐっすり寝られるわよ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、先に入って頂戴。リークと主人は今日は入らないって言ってたから」
「いいんですか?」
「私は後で入るから」

 という事でバラ風呂を堪能させて頂く事になった。部屋の鍵を閉め、服を脱いで体にじっくりお湯をかけ、そろりとバスタブに張り巡らせたお湯につかる。

「うーん…!」

 バラの豊潤で品のある香りが、鼻腔に伝わって来る。これは良い。
 後宮でも何度もバラ風呂に入ってきたが、久しぶりにあの時を思い出した。皇太子と共に入ったり、侍女を従わせて入るバラ風呂も良かったが1人も良い。

「…リークも入らないのかな」

 これだけの豪華なバラ風呂なのだ。リークと共にお風呂に入りたいという欲が自然と湧いて出てくる。