「リークかい、久しぶりじゃのう」
突如、老いた男の声が水晶窟全体に響き渡った。どうやら先客がいたようだ。私は思わず身構えるが、リークから大丈夫だと小さく声をかけられる。
「あ、あなたの知り合い?」
「ああ。この方は同じ狼男のマッシュ爺さんだ。水晶窟の番人で、掘削もしている」
サンタクロースのような白髪に白いひげをたくわえた見た目は人間の老人と全く同じである。マッシュが帽子を取ると頭の上にはリークと同じように狼の耳が生えているのが見て取れる。
「そうなのね…」
「ふむ、リークこの方は?」
マッシュに尋ねられた私は、モアと名乗るべきかナターシャと名乗るべきか迷って、ナターシャと名乗った。
「ナターシャか、あの皇太子妃と同じ名前か」
「…みたいですね」
「まあ、ナターシャという名前の娘くらいたくさんおる。気にするな」
マッシュはほほ、と笑いながらピッケルで水晶を掘る。
「そういえば、こないだ久しぶりに帝都に訪れたんじゃ」
「マッシュ爺さん、そうなんですか?」
「ああ、妹が亡くなってその葬式と手続きにな。ウン十年振りじゃ。帝都に赴くのは」
帝都。それは皇帝及びその一族や政治の中枢を担う人物達が住まう都市である。
人々が常に行き交う大都市で、その中心に皇帝らが住まう城がある。その後宮に私はいた。
「マッシュ爺さん、帝都はどうだった?」
「知らぬ間に皇帝はキム皇太子に譲位しとってな。今はキム皇太子が皇帝として政を仕切っておるそうじゃ」
私はその名前を聞いて、思わず全身が痺れるように震え出すのを覚えた。
(キム…皇太子が…皇帝に…)
あの皇太子が皇帝に即位した。あの皇太子が。震えが止まらない。
「それに、戦の準備をしとるそうじゃ」
「戦ですか?!」
リークが途端に、悲鳴のような声を上げた。
突如、老いた男の声が水晶窟全体に響き渡った。どうやら先客がいたようだ。私は思わず身構えるが、リークから大丈夫だと小さく声をかけられる。
「あ、あなたの知り合い?」
「ああ。この方は同じ狼男のマッシュ爺さんだ。水晶窟の番人で、掘削もしている」
サンタクロースのような白髪に白いひげをたくわえた見た目は人間の老人と全く同じである。マッシュが帽子を取ると頭の上にはリークと同じように狼の耳が生えているのが見て取れる。
「そうなのね…」
「ふむ、リークこの方は?」
マッシュに尋ねられた私は、モアと名乗るべきかナターシャと名乗るべきか迷って、ナターシャと名乗った。
「ナターシャか、あの皇太子妃と同じ名前か」
「…みたいですね」
「まあ、ナターシャという名前の娘くらいたくさんおる。気にするな」
マッシュはほほ、と笑いながらピッケルで水晶を掘る。
「そういえば、こないだ久しぶりに帝都に訪れたんじゃ」
「マッシュ爺さん、そうなんですか?」
「ああ、妹が亡くなってその葬式と手続きにな。ウン十年振りじゃ。帝都に赴くのは」
帝都。それは皇帝及びその一族や政治の中枢を担う人物達が住まう都市である。
人々が常に行き交う大都市で、その中心に皇帝らが住まう城がある。その後宮に私はいた。
「マッシュ爺さん、帝都はどうだった?」
「知らぬ間に皇帝はキム皇太子に譲位しとってな。今はキム皇太子が皇帝として政を仕切っておるそうじゃ」
私はその名前を聞いて、思わず全身が痺れるように震え出すのを覚えた。
(キム…皇太子が…皇帝に…)
あの皇太子が皇帝に即位した。あの皇太子が。震えが止まらない。
「それに、戦の準備をしとるそうじゃ」
「戦ですか?!」
リークが途端に、悲鳴のような声を上げた。