「そろそろ寝ようか」

 リークが私の顔を見上げて来る。いつもより近くで見るリークの顔は、より精悍でミステリアスだ。

「ええ、そうね」

 リークが部屋の明かりを弱める。すると部屋の中は薄暗くなった。何とか手足が見える程度である。

「お休み」
「お休みなさい」

 こうして、リークと同じ布団で寝ていると、皇太子との夜を思い出す。

 初めての夜伽。入浴時からずっと緊張していて、息が荒かった。
 皇太子のそれは思った以上に激しかった。奥から漏れ出す喘ぎ声をずっと必死に抑えるのがやっとだった。
 しかしリークは今の所、私に手を出すどころか触ろうとする気配すら感じられない。

(なんだか、それはそれでもどかしいような…)

 私は起き上がって、リークを見る。リークは既に寝ているようだ。

「…」

 私は、リークの頬を撫でてみる。

「…どうした?」

 するとリークはのそのそと起き上がった。

「リーク」
「?」

 私はたまらず、リークに抱きつく。リークの温度が一気に私の体に伝わってくる。

「ナターシャ…」
「少しだけ、こうさせて」
「…わかった」

 リークが私の頭をそっと撫でる。

(このまま時間が止まってくれたらいいのに) 

 翌朝。結局あれから私はリークに抱きしめられたまま眠ったのだった。
 リークは先に起床して、畑仕事と朝食の準備をしている。

「ナターシャ、おはよう」
「リークおはよう」
「昨日は良く眠れたか?」
「ええ、あなたのおかげよ」
「それはどうも」

 リークの穏やかな表情は、いつ見ても心を温かくしてくれるように感じる。