リークは覚悟を決められないでいた。人を殺しても、皇帝を殺してもいいのか。と

（だが、そうしないとナターシャが助からないかもしれない）

　リークは何度も息を吐いて吸ってを繰り返し、弱い己と対峙する。そして頭の中で、ナターシャを思い浮かべていた。
　リークの頭の中で映し出されるナターシャの姿は、リークの作った料理を美味しそうに食べたり、穏やかに過ごしている姿である。

（ナターシャはいつも自分が作る料理をおいしいと言ってくれた。そして笑顔で、穏やかで…いたら安心する存在だ）
（覚悟を決めるべきだ）

　リークは、メイルらに目線を向けた。その目線は真っすぐで、迷いは全くない。

「覚悟を決めた。戦いたい」

　こうして、彼らのナターシャとナジャを取り戻す戦いと…皇帝キムを廃する戦いが始まった。
　メイルの魔術もあって各地のレジスタンスたちとの情報連携は何とか形になった。そしてナジャの侍医含めてメイルの知り合いの魔女らも力を貸してくれる事が決まった。
　
　一同は帝都に水鏡で向かい、警備が手薄な宮廷…後宮の裏口から攻め入る予定となる。決行日はナターシャとナジャが後宮入りして3日目の夜に決まった。
　夜の闇に紛れて、一気に忍び込み勝負を決めるという魂胆だ。
　
　時は流れて計画決行日当日の昼。リークは帝都内のホテルで1日を過ごしていた。屋内ではあるが狼耳を隠すための帽子を被り、迷彩魔術のかかったネックレスも忘れずポケットの中に入れている。

「緊張している？」

　彼へメイルが優しく語り掛けた。

「…正直に言うと少しだけ」
「でしょうね。緊張しない子なんていないわ」
「…上手くいくでしょうか」
「こういう時はね、上手くいくと考えた方が楽よ」

　メイルは左人差し指を立てた。

「自信をもって。　ナターシャに会いたいでしょう」

　リークは息を大きく吸い込むと、大きく頷いたのだった。

（必ず、成功する…！）

　そして作戦決行の瞬間が訪れた。魔術などを駆使して家臣に変装したリーク達は、後宮の入口へと進んでいく。

「お前達は？何の用だ？」

　入り口に立っている番人の兵士に呼び止められるも、これは想定の内。兵士に変装したリークが宮廷内の警備と言って中へと入っていく。

「ああ、夜の番か。しっかり励めよ」
「了解です」

　こうして、彼らは後宮内へと入っていったのだった。

（ナターシャ、必ず迎えに行く…！）