小さな本棚にあった古びた本を1冊取る。表紙からしてどうやら絵本…童話のようだ。

「ナターシャ、それは?」
「童話の本みたい。結構古いようね」

 私は表紙をめくり、本を読んでみる事にした。しかし表紙をめくった先のページには童話では無く、どうも歴史書らしき文言が書かれている。

「童話…というよりかはこれは、歴史の本?」
「うそ?」
「ほんと。これ…歴史書だ」

 書かれている内容を、簡潔にまとめてみる。
 今から500年ほど前。この国は皇帝ではなく国王がおさめていた。今とは違う王朝だったようだ。そんな国王は戦ばかりで民草は度重なる戦続きで疲弊していた。

(今のキムのようだ)

 だが、戦続きなのも周辺国に挟まれた立地という理由もあるようだ。
 そして国王は遠征中、ある娘を気に入った。その娘は踊り子で、各地を回っていた娘であった。国王はその娘を大層気に入ったが、彼女には既に狼男の恋人がいた。
 国王は無理やり娘を後宮へ入れ、自分の側室とした。これに怒った狼男の恋人は、国王のいる宮殿へと変装をして入り込み、最終的には国王を暗殺し、血肉の一部を食べてしまう。

(…)

 しかし国王を殺された事で国は隣国に攻められて滅び、狼男は国を滅ぼした罪を擦り付けられて処刑されてしまった。処刑を免れた娘は国王や狼男をたぶらかした悪女と言うレッテルを張られ、宮殿でも生活できなくなった結果どこかの修道院に身を寄せて、死ぬまで修道女として生活したのだった。

「これは…」

 誰も幸せにはならない話だった。

「そんな歴史が…知らなかった」
「私も…」

 おそらくは負の歴史という事で、あまり伝わっては来なかったのだろう。
 ナジャ差更に口を開く。

「国王が死んだら掌返しといのも、何だかね」
「ナジャ…確かに国王を殺したのは狼男だけど、全てを彼に擦り付けた感じは、するかも」
「それに、踊り子の娘も可哀想だわ。むしろ被害者でしょ」

 結局は、自身の立ち位置は周りが決めるという事かもしれない。だから踊り子の娘は悪女とされた。

(私とは大違い)
   
 だが、1つだけ共通点もあった。それは狼男の存在だ。

(リークがキムを殺す…もし、そうなったらどうなるのだろうか)

 胸の中でざわめきが、不快に不穏に騒ぎ出す。