ざわざわ…

 ナジャに連れられてやって来たローティカの街の大通りは華やかに花や軍旗で彩られ、人が大勢いる。
 一応迷彩魔術がかかったネックレスはドレスの内ポケットに入れて来ている。そしてメイルはしっかりあのウサギも首にリードを付けて連れてきている。

「すごい賑やかね…」

 そう口に出してしまう程の賑やかさ。皆とはぐれないように気をつけなければならない。

「そろそろ始まるのかな」
「ナジャ?」
「ナターシャ…もう兵士が集まり始めているし、そろそろかなって」

 大通りには警備の為の兵士が既に列をなしている。

「ナジャの知り合いいたりするかしら」 
「どうかしらね、いるかも」

 聞けばラングレーと言って、陸軍時代のナジャと仲が良かった兵士がいるのだという。彼は今は騎士団長を勤めているのだとか。

「彼の事今でも尊敬してるわ」

 そう語る彼女の目はきらきらと輝いていた。愛ではあるが恋とはまた違った感情が、彼女の目からは垣間見えた。

「そうなのね」
「ええ、彼もパレード出ると思うわよ」
「どんな方なの?」
「かっこいいし、優しい紳士よ。そして真面目。軍人らしい方だと思うわ」
「なるほど…」
「私、あんな軍人になりたかったのよね。まあ、後悔は似合わないからやめとくけどね!」

 ナジャとひとしきり話した後、警備にあたる兵士達の動きが急に慌ただしくなる。

「始まるわ」

 ナジャが小声で私と周辺をきょろきょろしていたメイルとマッシュにささやく。

(あの男が来るのか…)

 私が大通りを睨むようにして目線を向けると、兵士が大声でパレードが始まる旨を告げる。

 ドーン!ドーン!

 勢いよく祝砲らしき銃声が鳴り響くと、静かに軍隊の隊列がこちらへと真っ直ぐに歩いてきた。

「あれが、陸軍…」

 正装を着用し、銃を持って規則正しく行進する姿は、前世で見た軍事パレードと変わりなく見える。