「ナターシャ！おまたせ！」

　ナジャがばたばたと侍医を連れて、私がいる部屋の中に入ってきた。侍医は先程と同じ服装をしているが、髪は少し崩れている。急いで駆けつけてくれたのが見て取れた。

「すみません…」
「謝らなくて大丈夫ですよ。私の仕事ですから」

　侍医はバッグから体温計を取り出し、私に優しく手渡してくれた。
　私は右脇の下に体温計を挟み、体温を測る。

「…38度超えているような…」
「あら、熱に効く薬出しましょうかね」　
「お願いします」
「熱に効く薬はご飯食べてから飲んだ方が良いですよ」
　
　そのご触診を終えて熱冷ましと痛み止めの薬を貰い、退出する侍医を見送った私はふうっと大きく息を吐く。
　まだ頭の痛さが取れていないからだ。

「ナターシャ大丈夫？」
「…まあ、平気」
「頭痛い感じ？薬用にお白湯持ってくるわね」
「ありがとう、ナジャ」

　ナジャが新しいお白湯を入れてくれた。私は痛み止めの薬を飲み、布団を被る。

「ナターシャ、朝ご飯食べられる？」

　食欲は…あるかないかで聞かれたらある。

「何にする？お雑炊でも食べる？」
「じゃあ、それで…」
「わかった。料理長にも伝えとく。この部屋に持ってくるようにも言っておくから」
「ありがとう…」

　ナジャが部屋から出ると、また静かで冷え切った部屋に戻る。

（早く治したい…）

　布団の中は温かい。だが、顔は頬が熱くそれ以外が冷たいというよくわからない温度を保っている。

「はあ…」

　もしかして、環境の変化に慣れずに体調を崩してしまったのだろうか。私はふとそう考えた。

（短期間で結構移動したからなあ…疲れが溜まっていたのかもしれない）

　その後。朝食の雑炊を食べて熱冷ましの薬を飲むとまたベッドの布団に潜る。
　
（今日はこのまま、ゆっくり過ごそう）