ナジャは冷静にキムの評価を語る。確かに私の知る限りあの男は内政を重視するようなタイプではない。

「そう…」

 私は敢えて、語らない事にした。ナジャの言葉から彼は変わってはいない事をうっすら理解したからだ。
 その後。別荘には迷彩魔術をかける事になり、さっそくメイルは部屋を飛び出し、魔術をかけに行ったのだった。

(行動するなら早い方が良い)

 夕方。夕食の時間が近づいてくる。

「ナターシャ、夕食食べたいものある?」

 一旦自室に戻っていたナジャが、再び私から部屋に現れてそう尋ねてきた。

「えー…」

 そう言われても特に今は何も思いつかない。

「ナジャは?」
「私良い事思いついてね。鹿肉や野菜を大鍋で煮込んでみたいなって」

 そう語るナジャの目は、きらきらと輝いている。

(大鍋で煮込みか…)

 ナジャの目を見ると、私も食べて見たくなったので、それにしよう。と賛成の意思を見せる。

「じゃあ、料理長達に言ってくる!」
「いってらっしゃい」

 ナジャは風のように、いや、暴風のように勢いよく私の部屋から去っていったのだった。

(すごい勢いだ…)

 私はナジャの背中が消えるまで彼女を見てから、ベッドの上で大の字になる。

(豪華な別荘でスローライフかあ…)

 裏山には獣がいて、中庭にはリークの家と同じく野菜と穀類が植わった畑と田んぼがある。
 魚はローティカの街の市場で手に入る。食事はまず、困らない。

(戦争がどうなるかだなあ…)

 国の行く末なんて、正直どうでも良い。もう私には権力欲も支配欲もとうに無くなっている。
 ただただ、死ぬまで静かに平和に暮らせたらそれで良いと思っているが、戦争がそれを許さないだろうという思考もあるにはある。

(キム…)

 好戦的な彼を恨む気にもなれない。前世の、まだまだ欲のある状態の私なら、今頃彼を毒殺しているだろうが…

「はあ…」

 ため息が部屋の中でこだまして響く。