青野くんと二人、並んで座った段差に足をかけて、がちゃりとドアを開ける。
「な、……んで」
そこにいたのは。
「久しぶり、美紅ちゃん」
あの日の元凶である、先輩その人だった。
「いやぁごめんねマリア」
「別にいいですけど。それよりあの日の約束、ちゃんと守ってくれるんですよね?」
マリアちゃんと話す先輩に、あの時の震えが蘇る。
「あーそれは無理かも。なんか俺、美紅ちゃんのこと本気になっちゃった」
恐ろしいことを平然と言われて、脳が理解を拒む。
本気?なにが?
あんなことしておいて何を本気になったの?
「はぁ。それはどうでもいいです。好きにしちゃってください」
それを合図に、どんっと背中を押されて先輩の前に突き出される。
よたよたとおぼつかない足でその場にへたり込んだ私の顎を、ぐいっと遠慮なく持ち上げられた。
「いやぁ可愛いねぇ。ちょー好み」
怖い。
怖くて、吐きそうだ。
こんなことなら、無視して青野くんのところへ行けばよかった。
あとでもっと酷いことになったって、そんなことも考えずに、青野くんと話せたらどんなに良かったか。
マリアちゃんに、女の子達に嫌われてるなんてことを青野くんに知られるのが恥ずかしくて。
いつでも連絡してと言ってくれた優しさを、私の変な意地で握りつぶしたのだ。
きっと大丈夫だからと。
根拠のない、自信にもならない何かに縋って。