「びっくりした……って、優太?どうしたの、わざわざ」


少し乱暴に開けられた扉の前___廊下に立っていたのは、部活終わりなのだろうか、少し制服を着崩した格好の優太が立っていた。

今まで優太がこんなところまで迎えにくるなんて、なかったのに。今日はどうしたんだろう。


っていうか、優太に私の放課後いる場所とか教えたっけ?


「……どうせまた一年坊におちょくられてる気がしたから、迎えにきた」

「おちょくられてるって……」


なによ、バカにして楽しいの?というような目を優太に向けると、優太の視線は私ではなく、その隣にいる流くんに向いていた。


「海花、さっさと帰るぞ」


でも、優太が流くんに視線を送っていたのも一瞬で、いつのまにか教室内に入ってきた優太は、まだ何も用意ができていない私を急かす。


「えっ……そんな急に言われても!まだ準備できてないよ」


「待ってっから」


急いでバッグに荷物を詰め出した私を見て、久々に優しい表情を見せたかと思うと、優太は私の座っていた席___流くんの対の位置に座った。

……あれ、バッグの中に体操着が入ってない。
確か今日、体育の授業の後、制服に着替えて、体操着はロッカーに入れたままにしちゃったっけ。


「体操着、教室に忘れた。取ってくるね」


教室へ向かう前に二人にそう告げると、小走りで廊下へ出た。




「へぇ、お前がウワサの不良一年生?」


「へぇ、あんたが伝説の海花先輩オサナナジミ守護神ね」


余裕そうな表情をした流くんにイラっときたのか、優太は挑発するように笑った。


「お前、海花に何かするつもりかよ」


その目は、キツく流くんを睨んでいた。

「何言ってんの?……へー、そういうこと。海花先輩のこと、好きなんだ?」

「ばっ……な、なんだよ!関係ないだろ!」

わかりやすく態度を急変させる優太に、クスリと笑った流くんは、頬杖をついた。
そして、そのまま優太のことを見つめる。


「へー」

「文句ないよな?」

「そりゃあ」


数十秒。その時間が何分にも感じられて。

二人の交わる視線の間には、バチバチと激しい火花が飛び散っているようだった。両者、笑顔ではあるのだけれど。



「ごめんねー、よし!準備できた!」


教室に戻ると、笑顔の二人が目に入った。
私がいない間に、何か会話を交わしたのだろうか。よかった、仲良くなれたみたいで。

「帰るか、海花」

「そうだね。……あ、流くんも一緒に帰ろう!」

せっかくだし!と付け足して、こっちこっち、と手で招くと、流くんは怪しげな笑みを優太に向けた。


「えー、いいんですか、海花先輩」

「え……うん。逆にダメ?かな?」


私も優太も、大歓迎なんだけどな。そう思っていたけれど、流くんは静かに首を横に張った。


「……今日はやめとく」

「そう?」


こくりと頷いた流くんはこのあと、もう少しだけ教室に残るのだろうか。

まあ、一人になりたい時なんて、誰にでもあるもんね。


手を振ると、片手を上げるだけ上げてくれた流れくん。
手のひらを振ってはくれなかったけれど。



優太と一緒に生徒玄関を出ると、6時近くでも、真っ青な空が晴れ渡っていた。



「暑いな」

そう呟く優太に、


「流くんと仲良くできたみたいでよかった。何話してたの?」


そんなことを問いかけても、優太はドヤ顔で私を見つめてこう言うだけだった。


「男の会話ってやつ?」

「なによそれ」


そう笑った。