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 男は、隣室から、大きな笑い声が聞こえるのに、眉をひそめた。

 男の住む高齢者住宅は、高所得者用のハイクラスのものであり、その設備や食事には十分満足しているものの、周りの居住者とは、まだ打ち解けることができていない。


 特に、隣室に住む同年代の男は、面白みのない人間であった。話題を振っても、ありきたりの回答しかしないし、仕事で出世しそうなタイプにも見えない。

 そのような男が、どうして、自分が住むこの居室よりも広い、ランクの高い部屋に居住できるのか。

 よほどの資産を相続したのかと想像し、食事のため顔を合わせた際にやんわりと聞いてみたこともあったが、その回答は「うちは妻も働いていましたので。」と短いものであった。