最近、寝起きが良い。
寒い冬、ただでさえ起きるのがめんどくさいのに今日から期末テストだ。
なのに、好きな人と学校で会えると思うと自然と体が起き上がる。
恋のパワーは絶大だ。、
顔を洗って、朝ごはんを食べて、歯磨きをして、家を出る。
最近、下を向いて歩くことがなくなった気がする。
彼のことを思うと自然と顔が前を向く。
本当に恋のパワーはすごい。
学校に着いたら、真っ先に彼の机を見る。
まだ来ていない。
私は自分の席に座って、テストのために心を落ち着ける。
筆記用具が揃っているかチェックをした。
あれ、シャー芯がない
どうしよう。
忘れてしまったみたいだ。
私は内気で気が弱く、このクラスにはとても何かを貸してもらえるような友達はいない。
困った。
私がそんなで慌てていたら、急に後ろから肩を優しく叩かれた。
振り返ったら、光輝くんが立っていた。
今さっき来たのだろうか。
びっくりして、硬直した私に向かって、光輝くんは
「どうした?何か忘れた?」
と声をかけてくれた。
「えっと、シャーペンの芯を忘れてしまって」
「じゃあ、俺の何本かあげる、ちょっと待ってね」
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
なんて優しいんだろう。
慌てた私に気づいてくれて、わざわざ声をかけてくれるなんて、
テストはこのシャー芯のおかげですらすら解くことができた。
もう一度、光輝くんにお礼をしようとテストが終わったあと、彼の席に向かった。
でも、こんな私から話しかけるなんて迷惑ではないだろうか。
そんな不安も浮かんだが、やっぱりお礼はきちんとした方がいいと思い、彼に思いきって話しかけた。
「あ、あの!今日はシャー芯をありがとうございました。おかげでなんとか助かりました。」
よ、よし、言えた!
安心しきってると、彼がニカッと笑って、
「いいぜ!そんくらい!」
ぐはあ。
彼の笑顔は心臓に悪い。、
油断大敵だった。
その日の帰りは月曜日の夜だというのにうきうきだった。
なんせ、彼にシャー芯を貰えた上に話すことも出来たのだから。、
今日が私の命日かもしれない。
今日は私の好きな漫画の発売日だ。
私は大道からあまり知られてない漫画まで色んなジャンルを読破している大の漫画オタクだが、
今日発売されるのは1か月前から楽しみ待っていた私の愛してやまない漫画だ。
もう続きを読みたくて、読みたくて、授業中、ずっとうずうずしていた。、
やっと授業が終わり、急いで帰る準備をして、学校を出た。
まだ、残ってるだろうか。
かなり人気だからもう売り切れているかもしれない。
期待はしないでおこう。
本屋に着いて、急ぎ足で新刊コーナーに行った。
うわ、どうやら売り切れてしまったようだ。
がく。
明日には入荷するだろうか。
これでは気になりすぎて夜しか眠れない。
しょんぼりして、本屋を出ると、急に誰かに呼び止められた。
「お!清水さん!」
「え!?光輝くん!?」
心臓がばくばく鳴った。
「清水さん本屋になんか用があったの?」
「う、うん。好きな漫画が今日発売日で、、続きが気になって、気になって、でも、売り切れてて、買えませんでした、」
その時、彼が持っている袋の中の漫画が目に入った。
「あ!それは!」
しまった、声に出してしまった。
「ん?あ、これ?」
「これも今日発売日の漫画でさあ、これ大好きだから早く読みたくて」
「あ!もしかして、これ?清水さんのお目当ての漫画」
「は、はい、そうです、」
「はは、じゃあ、今日これ清水さんが読んでいいよ!」
「え!?いやいやいやいや!大丈夫です。」
「いや、いいよ!はい!読んで!」
「読み終わったら返してくれたらいいから」
「今日、用事あるから、もう帰るね、ばいばい!」
まるで、風のようだった。
本当に大丈夫だろうか、借りても、、、
それでも、今すぐに読みたい、、
結局、申し訳なさより、早く読みたいという欲望が勝り、家に帰って速攻で読んだ。
はあ、最高だった。
明日、きちんと代金とともにお返ししよう。
翌朝、早起きして、学校に行った。
漫画を読み終えたあと、急に、ほんとに借りて大丈夫だったのだろうかという不安が押し寄せ、もう手遅れだけど、せめても早くお返ししようと思っての事だった。
まだ、教室には誰もいない。
光輝くんが登校したらすぐに返そう。
静まり返った教室で私は何度も光輝くんに漫画を返すシチュエーションをシュミレーションした。
ふと、教室の窓の外を見ると、まだ日が登りきっておらず、星がうっすら見えた。
なんだか、見惚れてしまい、そのまま数分がすぎたと思う。
いつの間にか日が昇っていて、教室にもちらほら生徒が集まってきていた。
もう、光輝くんも登校していた。
しまった!せっかく早く来たのに意味がないじゃない!
急いで、袋に綺麗に入れた漫画を持って席をたった。
「あの、光輝くん、漫画、ありがとうございました。」
「ん?ああ、いいよー、おもしろかった?」
「はい!もうとても!」
読んだ内容を思い出して、ついつい興奮した声が出てしまった。
「ふふ、そんな顔した清水さん初めて見たよ」
うわ、変な顔じゃなかったでしょうか。
「あ、あと、代金を、、」
「え、いいよいいよ、大丈夫だから」
「いや!そんなただで読ませていただく訳には!それにこの間、シャー芯も貸してもらったし、、」
「んー、そこまで言うなら、お金はいいから、今日の帰り、お礼として、おおすめの漫画教えてよ、清水さん、たくさん漫画知ってそうだし」
「え、でも、、」
「いいのいいの、じゃ、決まりで」
えー。強制的に決められてしまった。
申し訳ない。
漫画を教えるって、そんなことで良いのだろうか。
心残りがある中、授業が終わり放課後になった。
「しーみずさん!本屋行こ!」
「え、あ、うん」
「あの、」
「ん?」
「ほんとに、こんなこと良いんですか?」
「いいよー、さ、はやく教えて!」
「えーと、どんなジャンルが良いですか?」
「うーん、戦闘系で!」
「じゃあ、これとか面白いですよ、あー、あとこれも!うわっ、これも捨てがたい、、、あ!そっちのも感動するし!あれも良い」
「ふはは、清水さん、漫画のことになるとすごくしゃべるね」
「うわあああ、ごめんなさい、私」
「ううん、かわいい」
え?聞き間違い?かわいい?
急に顔が火照ってきた。
というか、お礼のつもりでいたけど、これはたから見たらデートというものでは!?
いや、私だけが一方的に好きなだけだけど。
「ん?どうしたの?清水さん顔赤いよ、体調大丈夫?しんどい?」
「あ、ああ!いや!違うんです。大丈夫です。
あと、やっぱり悪いんで、今日気に入ったのがあったら一巻だけ私に買わせてください!」
「えー、いや、大丈夫だよ」
「いえ!だめです!私の気が済みません!」
「はは、じゃあお言葉に甘えて、ありがとうございます。」
「んー、じゃあ、これにしようかな、」
「はい!いいと思います!じゃあ買ってきます!」
よっかた、これで借りが返せた!
「今日はありがとう!いろいろ漫画教えてくれて」
「いえいえ、こちらこそ!楽しかったです!」
「ほんと?良かった」
「じゃあ!また明日、感想言わせてね!ばいばい。」
「さようなら」
はあああ、最高の時間だった。
まだ少し顔が熱い気がする。
あれ以来、光輝くんと話す機会が増えた。
漫画という同じ趣味が見つかり、それからは徐々に話題が増えていった。
向こうからはただの漫画好き同士としか思われていないかもしれないが、それでも私はお近付きになれたことが嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
「しーみずさん!」
「うわ!びっくりした!」
「へへ、脅かしてやったぜ」
「もう、なんですか?」
「そうそう、あの漫画の新巻読んだ?」
「読みました!もうあのシーンが最高で!」
「それ!あのキャラの決めゼリフかっこよすぎた」
「ほんとにそれです」
「ふふ、やっぱ清水さんと話すの楽しいや」
こんな言葉で喜んでしまう私はやっぱりちょろい。
「あ、ありがとう」
「ねえ、清水さんのこと下の名前で呼んでもいい?」
「え!?」
「だめ?」
「え、いや、い、いいです、」
「よし、じゃあ、これからはしほちゃんで!」
初めて好きな人から下の名前を呼んでもらい、思わず顔がにやける。
キーンコーンカーンコーン
「おっチャイム鳴った、じゃあね」
と言って、光輝くんは平然と席に着く。
私は授業中ずっと上の空で、彼が呼んでくれた自分の名前を脳内でリピートする。
嬉しさが頂点に達した。
ニヤけが止まらない。
そうしてるとすぐに授業は終わった。
放課後になり、光輝くんが
「しーほちゃん!」
まだ慣れない呼び名に恥ずかしさを感じながらも返事をする。
「一緒に帰ろーぜ」
「い、いいよ」
「いやー、買いたい漫画があってさ、ちょっと本屋に付き合って」
「わ、分かった。」
「あったー、これこれ」
「あ!それ!買うの?すっごくおもしろいよね!」
「ふふ、うん」
「よし、お目当ての漫画も買えた事だし、俺、これから用事あるからもう帰るね、ばいばい!」
「ば、ばいばい!」
好きの気持ちはどんどん大きくなっていく。
向こうが私のことをなんとも思っていなくても、私は彼と一緒にいられるだけで嬉しい。
そんなことで、この時の私は、浮かれすぎてしまっていたのかもしれない。
後にこんなことを引き起こすなんて。
最近、彼は私に気があるのではないかと思うことがある。
そうだったらいいな、なんて、淡い期待を持っている。
「しーほちゃん!一緒に帰ろーぜー」
「うん」
このごろ、毎日のように光輝くんと帰っている。
人気者の彼なら一緒に帰る友だちなんでいくらでもいるだろうに
それも私が期待を抱く理由の一つだ。
「あー、やっぱり、しほちゃんと話してる時が1番落ち着くなあ」
「あ、ありがと」
彼はずるい。
「あ!私、教室に教科書忘れてきた!取りに行くので帰っていてください。」
「え、でも、そんくらい待ってるよ、それか一緒に行こ?」
「いや、そんな悪いです。さようなら!」
無理やり話を終わらせて、学校へ走った。
「はあはあ、着いた」
自分の教室に向かう。
ドアを開けようとしたその時、中から話し声が聞こえた。
「ねえ、最近、清水さん、光輝と距離近くね?」
「え、それな、なんかうざ」
「ね!光輝も絶対嫌がってるよ」
「どうせ、清水さんが一方的に光輝を追っかけてるだけでしょ?」
「光輝かわいそー」
「そもそも釣り合ってないわ」
「それなw身の程わきまえろ」
私は静かに学校を出た。
もう空は日が落ちて薄暗くなっていた。
帰り道をとぼとぼ一人で帰る。
自然と涙が込み上げてきた。
止めようと思って天を仰ぐ。
それでも、溢れてきて、私は声を殺しながら泣いた。
だって、そうだ。
明るくて、おもしろくて、かっこよくて、クラスの人気者な光輝くんがこんな暗くて地味で陰キャな私のことを好きなんて世界線、おこがましい。
彼が私のことを好きかもだなんて考えが自意識過剰すぎて、急にはげしい羞恥心が襲ってくる。
もう私の感情はぐちゃぐちゃだった。
翌朝、私は彼と一旦距離を置こうと決心した。
きちんと身の程をわきまえて、これまでのようにただ眺めるだけにしようと。
朝、学校に行くと、光輝くんが
「おはよう!」
と言ってくれました。
「お、おはようございます。」
こ、これくらいはいい、よね。
あれ?シャーペンがない、忘れたのかな?
筆箱の中身を全て取り出しても見つからない。
家にあるんだったら良いんだけど、、、
私が焦っていると、後ろの席の方で雑談している3人の女子がこちらを見てくすくす笑っていた。
も、もしかして、
いやいや、そんな疑ってはいけない。
探そう。
「しほちゃん、どうしたの?またシャー芯忘れたとか?おっちょこちょいだねえー」
からかう感じで光輝くん言ってくる。
「いや、シャー芯はちゃんとあるし!」
「じゃあなにを探してんの?」
「朝、入れたはずのシャーペンが無くなってて、」
「えー、そうか、じゃあ、今日は俺の貸すよ」
「え、あ、ありがとう」
また、光輝くんに貸しを作ってしまった。
光輝くんには救われてばかりだ。
その日は光輝くんから借りたシャーペンで授業を乗り切り、早く家に帰って、シャーペンを探した。
ない、、!