八月三十日。

あと一日で夏休みが終わる。
この日、私は十八歳になった。

人生で初めて、人生で一番大切な人と過ごす誕生日。
春華が願ったように夏がやって来ないなんてことはもちろん無くて、むしろ夏が終わりそうな季節に私は十八歳になって、二人の差はまた三つになった。

その日、春華は言った。

「ヨヅキ、クリスマスイブにイルミネーションを見に行こう」

「イルミネーション?」

「うん。去年、見れなかったから。俺のせいなんだけどね」

「世の中の為だったんだから良かったんじゃない?」

「ヨヅキ、あのさ」

「うん?」

「その日にヨヅキの願いを叶えよう」

「………私の願いを?」

「俺達が出会って一年になる。ヨヅキの願いを叶えるならその日だって決めてたんだ」

「私が春華を忘れる日ってこと?」

「ヨヅキが世界中で誰よりも一番幸せになる日だよ」

「忘れるってこと?」

「ヨヅキにとって一番素敵な…」

「忘れるってことじゃん!!!」

流れる涙を止めることができない。
春華は酷い。
誕生日なのに、こんなに私を傷つけるなんて。

なんでそんなこと春華に決められなきゃいけないの!
願いなんて叶えなくていい。春華が居ないならなんにも幸せじゃない。
酷い…酷いよ…。

「あっちの世界に帰るの?」

「それは無理だろうなぁ。あっちで誰かが願ってくれなきゃさ」

「じゃあ私が春華を忘れたらどうやって生活すんのよ!路頭に迷って死んじゃうかもしれないんだよ!?」

「俺はずるいからさ、そしたらまたヨヅキに″初めまして″なんて言って会いにきちゃうかも」

「もう忘れてるんだから意味ないよ…」

「そしたらまた初めて会った時みたいな目で見られるんだろうなぁ」

他人事みたいに笑う春華。
なんでそんなに平気そうにするの?

泣きじゃくる私を見つめて、春華は困ったように笑った。

「俺の我が儘、最後に聞いて欲しいんだ。この世界の人達は誰かの願いを叶えるなんて力は持ってない。でもヨヅキにはできるよ。″俺の我が侭を叶える″ってこと。もしもこの修行が最後なら、その最後はヨヅキがいいんだ。ヨヅキとの最後の記憶は、君の笑顔がいいから」

春華がどんなに強靭な力を持っていたとしても未来を変えるほどの力は無いかもしれない。
だけど私は信じたかった。

春華と生きていける未来を。
春華なら叶えてくれることを。


「ヨヅキのことが本当に好きだよ。誰よりも大切だから、俺はヨヅキの人生で一番大切な願いを叶える。絶対に。俺を忘れてしまってもヨヅキが幸せならそれでいいんだ。そうしたいんだ。約束しよう?俺は絶対にヨヅキの願いを叶える。君は幸せになって。千年後にまた俺の命が廻れば、君は俺の中で生きていくんだよ。もう逢えなくても、二度と俺を思い出さなくても。ヨヅキに会えて良かった。俺の生きる希望になってくれてありがとう」

「しゅんッ…春華…たった一つだけ方法があるよね?私が春華にこの世界に居てって願えば、私の…恋人になってって…願………願えば、春華はずっとここに居られるの?私は春華を忘れないままで…!」

「…うん。きっと」

嘘だ。

そんなご都合主義、さすがに信じられないよ。
願いを叶えてもらった人間は記憶が消えるのに、″記憶を消さない願い″なんて叶うのかな…。

そんなバカげたことだって信じたかった。

「分かった…。ちゃんと考えるよ。私の一生に一度の願い事を」

「俺が幸せにしてあげる。ヨヅキがもう泣かないでいいように」